JAXA、「ネスカフェ」、「宇宙兄弟」という異色のコラボによる
ウェブサイト「バーチャル科学館」はなぜ生まれたのか
~宇宙とコーヒーを通して考えるこれからの未来のこと~
地球環境を考える日 “アースデイ” の2020年4月22日(水)にJAXAとネスレが共同で立ち上げたエコプロジェクト「#NescafeOurPlanet(ネスカフェアワー プラネット)」の第一弾として公開されたウェブサイト、「バーチャル科学館」。難しくなりがちなテーマである環境問題を、親子で楽しく学んでいただくための工夫が至るところに凝らされています。なぜこの企画は生まれたのか、企画に携わった3社の関係者が語り合いました。
- ・藤平 耕一(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 新事業促進部)
- ・石原 由貴(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 第一宇宙技術部門 事業推進部)
- ・吉永 祐太(ネスレ日本株式会社 飲料事業本部)
- ・小室 元気(株式会社コルク(「宇宙兄弟」編集担当))
- ・仲山 優姫(株式会社コルク(「宇宙兄弟」編集担当))
4月22日のアースデイに「バーチャル科学館」ウェブサイトを公開、各種キャンペーンを展開した。その反響は?
吉永(ネスレ):ウェブサイトの公開と同時に、「環境アクション宣言キャンペーン」を「ネスカフェ」のSNS公式アカウント(Twitter、Facebook、Instagram)上で行い、非常に多くの方にキャンペーンに参加いただき、「明日から出来ること」を考えていただくきっかけとなりました。
具体的には
- 「#水を大切にする」
- 「#環境に配慮した商品を選ぶ」
- 「#マイカップマイボトルを使う」
- 「#ごみを減らす」
という4種類の宣言から取り組みたいことを選んでいただきましたが、一番多かった宣言は「#水を大切にする」でした。
また、”必要以上に水を出さないように子どもと一緒に日々気を付けている”、”外出時にはコーヒーもタンブラーで家から持っていくことでゴミを出さないようにしている”など、
現在進行形で気を付けていることや、今後気を付けたいことをコメント欄に記載いただいている方も多かったです。
石原(JAXA)、藤平(JAXA):「ネスカフェ」、「宇宙兄弟」とタッグを組むことにより、JAXAのTwitterアカウントのうちの一つであるJAXAサテライトナビゲーター(@satellite_jaxa) のフォロワーにはこれまで登録が僅かだった層(女性や親子)が新たにフォロワー登録いただき、キャンペーンに参加いただいたのが印象的でした。
JAXAサテライトナビゲーターに宇宙や地球について質問いただける“『#JAXAと自由研究』Twitter企画”でもたくさんの素朴な質問をいただきましたが、特に印象に残っている質問は、”海面水温はなぜ上昇するのですか? また、それを止めるために私達に出来る事はありますか?”という小学生からの質問です。地球の環境に関心を持ってくださっていて嬉しかったですね。
小室(コルク):「宇宙兄弟」から宇宙に関心を持っていただく方は当然多いわけですが、
今回の「バーチャル科学館」はより宇宙について深く知っていただくための入門としての役割を果たしてくれるのではと感じています。
リアルの科学館に訪問する前に、まずはウェブ上で気軽に覗いていただくコンテンツとして機能していると思います。
仲山(コルク):ちょうどこの「バーチャル科学館」が公開されたのが、外出自粛により多くの親子にとって家で過ごす時間が増えたタイミングだったのも、より多くの方にリーチでき・お役立てていただけたのかなと感じています。
「バーチャル科学館」の企画が生まれたきっかけは?
吉永(ネスレ):2019年に発売10年目を迎えていた「ネスカフェ エコ&システムパック」(2008年発売当時の商品名は「ネスカフェ チャージ」)について、おいしいコーヒーが飲めるだけでない価値をより世の中に伝えていきたい、身近なコーヒーを通して自分たちに環境に対してできることを考えてほしい、何らかのアクションを起こしてほしいという想いを持っていました。そのような中、2019年に「ネスカフェ」×『宇宙兄弟』でのコラボレーション企画として「3 Coffee a Day~1日3杯のコーヒー習慣がいい人生をつくります~」をキーメッセージとしたキャンペーンでご一緒したコルクさんより、JAXAさんをご紹介いただきました。
仲山(コルク):「宇宙兄弟」の作品では、内容の監修についてJAXA様には13年間お世話になってきて関係は深く、過去のコラボ企画(前述の「3 Coffee a Day」)でもご一緒しているネスレさんであれば、とご紹介させていただきました。
藤平(JAXA):JAXAは「地球環境」に関連する各種指標の観測を実施し、客観的なデータ・情報を公開しています。一方で、観測が主体になるため、アクションにまでつなげられないことに私はもどかしさを感じていました。そのような中でコルクさんにネスレさんをご紹介いただき、今までの「ネスカフェ エコ&システムパック」が過去行ってきたプラスチック削減の歴史や、2019年8月に発表された「キットカット」の包装資材の紙化の事例をお伺いして、身近な商材をもとに消費者に影響を与え、エコアクションにつなげている取り組みに感銘を受けました。そのような企業と一緒になら、「地球環境」という大きなテーマに対して何かエコアクションにつなげることが出来るのではと思いました。
吉永(ネスレ):私自身、子を持つ親としても、子どもたちがこれから生きていく未来に対して自分は何ができるだろうか、常々思ってきました。企業としての大きな目標を掲げることも大事ですが、それよりも1人1人ができる小さな積み重ね・エコアクションが大事で、ネスレが発信するメッセージに、衛星データという客観的な裏付けが加わることで、より多くの方に自分ごと化してもらえるのではないかと考えました。
コンテンツを作っていくうえで工夫した点は?
吉永(ネスレ):繰り返しになりますが、「環境問題」をいかに自分ごと化してアクションに落としていただくかがポイントだと考えていましたが、「環境問題」の専門性・正確性を保ちつつどうわかりやすく伝えるかについて、アイデアを出すのに苦労しました。ネスレ単独でコンテンツを仕上げるのには限界を感じたので、JAXAさんには客観的データを、「宇宙兄弟」のキャラクターにはコンテンツをよりわかりやすく伝える力を借りました。
藤平(JAXA):JAXAが持つ「地球環境」についての膨大なデータの中からどれをピックアップするかを技術者と相談し、どう可視化させようかと検討を重ねました。
石原(JAXA):専門家や研究者しか読み解くことができない専門的な数値データを、正しさは損なわずに一般の人にも理解してもらいやすい内容に変換するよう心がけました。
小室(コルク):実は「環境問題」についての直接的な話題は、「宇宙兄弟」の作品内には出てこないんです。そのような中で、「宇宙兄弟」がなぜこのエコプロジェクトに関わるのか、「宇宙兄弟」と「宇宙」、「環境」との関連性について、どうつなげていくか検討するのに時間をかけました。
仲山(コルク):「ウェブサイトを作ることは決まっていたものの、「バーチャル科学館」というコンセプトの着想に至るまでが大変でした。「宇宙兄弟」の主要キャラクターであるムッタとヒビトがいきなり環境のことを語りだしても、「宇宙兄弟」のファンには届かないと思い、ムッタとヒビトが環境に関わりあいをもつのが自然で適切な「場」はどこなのかというのを関係者で議論しました。
吉永(ネスレ):「地球環境に関して何とかしなくてはいけない」という共通の想いは皆持っている中、各社が言えること・言いたいことを整理しながらまとめていくプロセスは大変でしたが、その結果としてよいコンテンツが出来上がったと自負しています。
今後行っていきたいことは?
藤平(JAXA):私は、JAXAの中で民間企業との共創による新事業開発を担当しており、いろいろなアイデアが出るものの、実際にローンチまで辿り着けるものはごく一部です。
今回のエコプロジェクトおよびウェブサイト「バーチャル科学館」はローンチを迎えてうれしく思っています。JAXAとして正確な情報、有益な情報を伝えるだけでなく、
「アクションにつなげる」、「人に届ける」ということが大事だと考えていますので、良い取組みができてよかったです、今後も続けていきたいと思います。
石原(JAXA):これまで自分が携わってきたイベントやキャンペーンは、単発で終わるものも多く残念に思っていました。今回の取組みは次につながる予感がしており、
第二弾以降に向けてこれから一緒にいろいろなアイデアを考えていきたいと思います。また、JAXAでは「だいち3号」「だいち4号」という新しい地球観測衛星の打上げも控えています。
これらのデータもどんどん活用していきたいと考えています。
小室(コルク):「宇宙兄弟」は、対象者が大学生以上の青年誌での連載が始まって13年、読んでいた世代が親になってきていて、子どもにも読ませたい・伝えたいというお声が増えてきています。
「読者である親が子どもに伝えていきたい漫画」として今後は子どもを対象にした情報発信を強化していきたいと考えているので、今回の取組みはよいきっかけになりました。
仲山(コルク):「ネスカフェ」のコーヒーも「宇宙兄弟」のキャラクターもリアルな生活に密接にかかわっているという共通点があります。
壮大で遠くの出来事に思いがちな「環境問題」について、エコアクションを促せる取組みに「宇宙兄弟」が関われたのは良かったと思います。
吉永(ネスレ):「宇宙で宇宙飛行士に「ネスカフェ」のコーヒーを飲んでもらいたい」というのは壮大な夢ではありますが(笑)。
エコ=何かを我慢する、不自由になるというネガティブなイメージもありがちだったなか、「楽しみながら学ぶことができる」という今回のエコプロジェクト、「バーチャル科学館」はとても大事な試みだったと思います。
今回のプロジェクトがきっかけで、自分たちにできることは何かを考えてみたり、一歩踏み出してくださった方がいたらうれしいです。
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