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QZナビ:準天頂衛星システムとGPS

QZSSとGPS

準天頂衛星システム(以降:QZSS)は、GPSを補完、補強するシステムのため、GPS抜きには語ることはできません。
今回のQZナビでは、測量やカーナビなどで活躍しているGPSとQZSSの関係について、深く掘り下げていきます。

もっとも身近な宇宙。

私たちが一番身近に利用できる宇宙がGPSではないでしょうか。簡単で便利に利用できるので、その実体と偉大さはあまり知られていません。GPSは大変優秀なシステムで、私たちの生活に浸透するまでには、長くたゆまない挑戦の歴史がありました。 現在もGPSは発展し続け、私たちの生活に不可欠な存在です。

GPSとは、Global Positioning System(グローバル・ポジショニング・システム)の略で「全世界的測位システム」や「全地球測位システム」と訳されています。

GPSは、米国国防総省(DoD:Department of Defense)により、1970年代から打ち上げられ、衛星からの信号を受信できる機器さえあれば、世界中のどこでもその位置を測定できるシステムです。

GPS は、当初、軍事利用目的で開発されたものでした。GPS運用開始当初、精度のよい信号は軍事用に制限され、民生用の信号はSA(Selective Availability)という規制によって故意に精度が落とされていました。しかしSAはクリントン大統領が定めた米国GPS政策に基づき、2000年5 月に解除され、それを機に精度は大幅に向上しました。

民生用信号(※1)は受信機さえあれば、誰でも無条件で使うことができ、測地や測量だけでなくさまざまな分野で利用されています。

一番身近な活用例としては、カーナビや携帯電話でも利用できるパーソナルナビなどがすぐに思い浮かぶと思いますが、それだけではなく、GPSを利用した地殻変動の観測、津波警報システム、粗大ごみの不法投棄監視など、測位とは無関係と思われるような場面でも私たちの生活をサポートしてくれています。

※1:民生用信号=GPSの信号には、「民生用」と「軍事用」の信号があり、一般的に利用できるのは、「民生用信号」になります。

GPSの活用例

  • 地殻変動の測定、地震・火山予測
  • ゴミの不法投棄監視
  • 荷物の位置情報管理
  • バスやタクシーの運行情報サービス
  • 子供や高齢者の位置情報サービス
  • 津波監視
  • 犯罪・盗難防止
  • 天気予報
  • 地図の作成
  • 農作物の監視
  • 道路工事
  • 貨物の積み降ろし
  • スペースシャトルの宇宙ステーションへのランデブードッキング
QZSSイメージ

GPSは万能?

現在、カーナビやGPS機能付携帯などGPSを活用する便利なアプリケーションは、私たちの生活でとても身近になり、今やGPSは私たちの生活になくてはならないものになっています。

しかしGPSは「全世界的測位システム」という名のとおり、全地球的に測位を行うもので、日本に特化したものではありません。

特に日本は、他の国と比べて国土の大部分を山地が占めており、少ない平地には都市が集中しているため、山やビルによってGPSからの測位信号が遮られてしまうという問題があります。

また日本は、米国に比べ「磁気緯度」が低いという地理的な特徴から、電離層(※2)の変動が大きく、その補正を行うのが難しい場所に位置しています。また、電離層は、時間によって激しく変動するので、その予測が難しいだけではなく、急激な受信レベルの変動、低下が原因で受信障害が起こってしまうこともあります。

現在、広く利用されているカーナビの多くも、GPSからの情報だけでなく、GPSの誤差を補正する補正信号や、地図とのマッチング、ジャイロ(※3)など、GPS情報以外の補正手段により、より正確な位置を計測、表示しています。

GPSの補正情報の多くは、地上の"基準点"という正確な位置が分かっている場所でGPS信号を受信し、どれだけその信号に誤差があるかを計算して作られ、それを補正情報としてFMの電波や光ビーコンなどで送信される方法があります。

しかし、その補正情報を送る場合も、送信できる情報量が少なかったり、障害物によってさえぎられたりすることがあります。

将来、より精度の高い測位を追求するには、日本の地理条件に応じて、GPS信号をより正確に受信、補正する技術が必要とされています。

※2:電離層= 地球を囲む大気圏上層部の層。電離層によって電波に遅れが生じるため、誤差の要因となる。

※3:ジャイロ=カーナビなどに使われる、回転する質量(コマ)の回転速度の変化から軸の傾き、角度変化を計測する機器

GPSとQZSSの共存

私たちの生活に浸透しているGPS。それにQZSSが加わるとどのような効果があるのでしょう。2つのシステムは、少し違っているものの、同じ「衛星測位システム」という仲間です。お互いを尊重し、助け合いながら仲間として共存したいと思っています。 測位の世界にすでにあるものと最新の技術を融合することで、はかり知れない可能性が生まれるかもしれません。

QZSSでできること

1.GPSの苦手を克服(GPS補完)

準天頂衛星は、現在運用中のGPS信号や、米国が開発を進めている新型のGPS信号とほぼ同一の測位信号を送信します。

GPS利用者は準天頂衛星からの信号を受けることで、GPSを利用できない時間・場所でも、正しい位置情報や時間を知ることができます。

これにより測位サービスの利便性を向上させることができます。

2.GPSを更にパワーアップ(GPS補強)

準天頂衛星は、GPSの精度を向上させる精密な補正信号を送信します。GPS利用者は準天頂衛星からの信号を受けることで、より正確な位置情報を知ることができます。これにより日本全国どこでも高精度な測位が実現できることが期待されています。

この2つの目的を達成するため、QZSSを用いて、以下の技術実証を行います。

  • 準天頂衛星やGPSの位置や時刻を高精度に推定する技術
  • 測位を行う上で重要になる高精度な時刻の管理
  • 電離層など、いろいろな影響を補うための補正情報の生成

さまざまな実験データを評価し、得られた技術成果・ノウハウを実際の運用に反映しつつ、目標とする性能を得る予定です。

また、これらを開発する際に得た基礎技術や、衛星測位システムに必要な機器など、実験実証等で得られた成果は、日本の次世代衛星測位システムへと引き継がれ、更なる高精度化に貢献します。

1.GPS補完

準天頂衛星+GPSの場合

GPSが3機しか利用できない場合は、準天頂衛星があたかもGPSのように機能。GPS単独利用では測位できない場所、時間でも測位が可能になる。

2.GPS補強

準天頂衛星+GPSの場合

準天頂衛星の補正信号により、GPS信号を補って、測位精度を高めます。
高速移動体で1m以下、低速移動体で数センチメートルの精度を目指します。

QZSS:GPS=RNSS:GNSS

全世界で利用されているGPSは、「地球的衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)」の1つであり、複数の衛星で構成される測位システムです。GPSは、米国が運用・管理し、24機+軌道上予備機の約30機で運用されています。

一方、準天頂衛星は、「地域的衛星測位システム(RNSS:Regional Navigation Satellite System※4)」と呼ばれる測位システムです。準天頂衛星システムは3機の衛星構成で、東アジア・オセアニア地域へのGPS補完サービスと主に日本を対象とするGPS補強サービスの提供を予定しています。

QZSSはGPSと同じ衛星測位システムといっても、決してGPSに対抗するものではなく、GPSと互換性(相互運用性)のある信号を送信することにより、お互いの衛星だけでは行き届かない地域や受信しにくい場所などをサポートし、情報を補い合うことによる高精度な位置情報のサービスが期待されています。

※4: ここではRNSSはRegional Navigation Satellite System(地域測位衛星システム)としての表記ですが、RNSSには、国際電気通信連合(ITU)が電波を割り当てる業務区分としてRadio Navigation Satellite Service(無線航行衛星業務)という用語もあります。ITUの世界では他のGNSSシステムもRNSSシステムの一部なのです。

GPSと準天頂衛星の信号

測位信号

○:全てのGPS(もしくは一部のGPS)から現在送信されている測位信号

◎:今後新たに追加される信号

GPS近代化計画に基づき、現在のL1、L2に加え、L5からも民生用の新しい信号を送信していく予定です。Block IIR-M型は、これまで軍事用の信号しか送信されていなかったL2帯に民生用のL2C信号を送信しており、Block IIF型は、3つ目の民生用信号であるL5信号を送信することが予定されています。

また、米国では今後30年を睨んだGPSの後継衛星であるGPS-IIIの配備計画について研究開発が進められており、2014年頃から打上げが開始される予定となっています。GPS-IIIでは、現L1信号に加えてL1Cといわれる新たなL1の民生用信号を送信する予定となっています。

※5:L1,L2,L5など=GPSではLバンドという周波数帯が使われており、その中でもL1、L2、L5などと分類され、それぞれ同じLバンドでも波長の違う信号が使われています。現在は、L1とL2(一部の衛星)のみが利用可能です。

JAXAの試み

JAXAは、技術試験衛星Ⅷ型「きく8号」によるHAC(High Accuracy Clock)実験を行っております。また、環境観測技術衛星「みどりII」陸域観測技術衛星「だいち」に搭載した「GPS受信機観測データを用いた低周回衛星の高精度軌道決定実験」も段階的に実施し、みどりIIを用いた実験では貴重なノウハウが得られています。これらの実験により、高精度軌道決定、時刻管理および原子時計の軌道上技術実証を行い、その成果を準天頂衛星にフィードバックして、高精度な測位技術の実現をめざしています。

世界の衛星測位システム

日本の準天頂衛星システムの他にも、世界中で新たに衛星測位システムを作ろうとする動きがあります。
各国の測位システムの特徴を見てみましょう。アメリカ、ロシア、中国は全世界を対象とするGNSS(地球的衛星測位システム)を運用、開発しており、インドは日本と同じRNSS(地域的衛星測位システム)を開発しています。

U.S.A

アメリカのGPS(Global Positioning System) (運用中)

システム構成
:6軌道面×各4機の計24機の衛星で構成
サービス内容
:全世界で、測位精度10mのオープンサービス
計画・運用主体
:米国国防総省、運輸省
現状と今後の予定
:1995年に運用開始宣言。2000年以降、民生用信号の精度低下機能をとりやめ。現在、高精度化等を順次推進中。GPSⅢ型から精度低下機能を搭載しないことを決定。
ロシア

ロシアのGLONASS(Global Navigation Satellite System)(運用中)

システム構成
:3軌道面×各8機の計24機の衛星で構成
サービス内容
:全世界で、平均測位精度12.05m、最大測位誤差68.09m
計画・運用主体
:ロシア連邦宇宙局、ロシア国防省
現状と今後の予定
:1996年にプロトタイプ衛星24機配備。一時期資金難により運用機数が7機程度に減少したが、2010年までに24機への再配備を予定。
EU

欧州のGalileo(実験中)

システム構成
:3軌道面×各10機の計30機の衛星で構成
サービス内容
:全世界で、測位精度15m(水平) - 35m (垂直)のオープンサービス等
計画・運用主体
:EU(監督機関: European GNSS Supervisory Authority (GSA)) 、ESA、(民間企業)
現状と今後の予定
:2005年12月に1機目、2008年4月に2機目の実験機を打上げ。全体システムの整備完了は2016~2019年の予定。
中国

中国の北斗(COMPASS:Compass Navigation Satellite System )(一部試験運用中)

システム構成
:静止衛星5機、中高度周回衛星27機、傾斜地球同期軌道衛星3機
サービス内容
:中国及び周辺地域(将来的には全世界)で、測位精度10mのオープンサービス等
計画・運用主体
:CSN(China Satellite Navigation Project Center)
現状と今後の予定
:2000年10月の初号機以降、4機の試験衛星を打上げ。第2世代の衛星を2007年4月から現在までに5機打上げ。全体システムを2020年までに整備予定。
インド

インドのIRNSS(Indian Regional Navigation Satellite System)(開発中)

システム構成
:静止衛星3機、傾斜地球同期軌道衛星4機
サービス内容
:インド及びその周辺サービスエリアで、精度20m以下の測位サービス
計画・運用主体
:ISRO(Indian Space Research Organization)
現状と今後の予定
:最初の衛星を2011年後半に打上げ予定、全体システムを2014年までに整備予定。

またインドではGAGAN(GPS Aided Geostationary Augmentation and Navigation)というGPSの補強システムも開発中です。

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