ミッション
地球規模の気象変動メカニズムを解明
レーダで熱帯の降雨を立体的に観測
TRMMは地球全体の降雨量のうち約3分の2を占める熱帯の降雨を観測する目的を持った日米共同プロジェクトです。 台風内部での降雨の強さを立体的な分布として示すなど、まったく新しい形のデータを提供し、気象予報だけでなく異常気象や地球温暖化現象など、地球規模の気象変動メカニズムを解明するための多くのデータを取得しました。
1997年11月に打上げられてから17年間以上も観測が続けられていましたが、2015年に運用を完全に終了しました。
開発と運用
日米共同プロジェクトとして、日本側が打上げロケットと新しい観測機器である降雨レーダ(PR: Precipitation Radar)の開発を担当し、 米航空宇宙局(NASA)が衛星本体、降雨レーダ以外の4つの観測機器の開発、衛星運用を担当しました。TRMM衛星が長期間にわたって観測を継続したことにより、 降水分野の研究は大きな発展を遂げました。TRMM衛星の当初のミッション目標は、約500kmの格子サイズで地表面の月平均降水量を求めることでしたが、 最終的には、TRMM衛星と他の複数の人工衛星の観測データを組み合わせることにより、約10kmの格子サイズで全世界の降水分布を準リアルタイムで作成できるようになり、 「世界の雨分布速報(GSMaP_NRT) 」として公開しました。 このような高分解能の降水データは、洪水の予警報や干ばつ監視といった分野でも利用されるようになってきています。
世界の雨分布速報には2014年2月に打上げられたGPM主衛星が観測する降水データも組み入れられて、現在も様々な分野で活用されています。
地球規模の環境変化を見逃さないために
雨は私たちに貴重な水資源を提供してくれるだけでなく、観測することによって地球上の水循環と熱エネルギー循環について詳しく調べることができるので、 気候変動メカニズムの解明にとても役立ちます。TRMMの観測データは、人間生活に大きな影響を与えるエルニーニョ現象の解明など、地球規模の環境変化を観測するだけでなく、 台風や洪水の予報など、私たちが安心して暮らすために現在も大きな役割を果たしています。
また、TRMMの観測データは降雨に伴う熱の収支などについて把握するために活躍しています。水蒸気が降雨となる過程で大気中には熱が放出されその潜熱量も気候把握のための貴重なデータとなります。 現在異常気象なども含めて、地球全体の気候を解明しようとする世界的な活動が盛んであり、個々の観測点での観測結果は衛星も含めてこうした情報ネットワークに取り込まれています。
GPM/DPRプロジェクトのステップとして
TRMMの降雨レーダは、日米を中心とした国際協力プロジェクトであるGPM計画の重要なセンサ「二周波降水レーダ(DPR)」の技術的な基礎となっています。TRMMプロジェクトは、確実に次の世代へとつながっています。
センサ/情報名 | データ詳細 | 画像/リンク | |
台風速報 | 準リアルタイムデータより作成した台風の画像を提供 | ||
台風データベース | 1997年12月7日からの台風(台風、ハリケーン、サイクロン等の熱帯低気圧全般)が観測されている部分を検索し、 それらの領域について主な標準プロダクトから切り出して収録したもの(ただし2001年8月7日から8月24日までは 衛星高度上昇のためデータはなし) | ||
PR準リアルタイム画像 | PRが観測している各アングルビンにおいて地表面クラッタの影響を受けていない、地表面に最も近い高度での降雨強度の画像 | ||
TMI最新画像 | 海面水温 | 観測範囲は北緯38度 – 南緯 38度(全球)/ 東経120度 – 西経70度 北緯15度 – 南緯15度(赤道太平洋)/ 東経100度 – 日付変更線 赤道 – 北緯38度(日本域) | |
雲水量 | 観測範囲は北緯38度 – 南緯 38度(全球)/ 東経120度 – 西経70度 北緯15度 – 南緯15度(赤道太平洋)/ 東経100度 – 日付変更線 赤道-北緯38度(日本域) | ||
可降水量 | 観測範囲は北緯38度 – 南緯 38度(全球)/ 東経120度 – 西経70度 北緯15度 – 南緯15度(赤道太平洋)/ 東経100度 – 日付変更線 赤道 – 北緯38度(日本域) | ||
海上風速 | 観測範囲は北緯38度 – 南緯 38度(全球)/東経120度 – 西経70度 北緯15度 – 南緯15度(赤道太平洋) / 東経100度-日付変更線 赤道-北緯38度(日本域) | ||
VIRS最新画像 | 可視赤外観測装置によって観測され、TRMM / VIRSレベル1(1B01) 標準プロダクトから計算されてた海面水温(SST:Sea Surface Temperature)の最新画像 | ||
月平均降雨画像 | 降雨レーダ(PR)、TRMMマイクロ波観測装置(TMI)、PRとTMIを組み合わせた複合センサ(COMB)、 TRMMと静止気象衛星および地上雨量計のデータを組み合わせたもの(TRMM and Others Combined)などによるレベル3標準プロダクト(月平均、緯度経度格子データ)の中から、 特に利用頻度の高いと思われる地表での降雨データを取り出し、シンプルな4バイト実数のバイナリデータとして編集したもの | ||
PR領域切り出しデータ | PR画像を切り出したデータ |
TRMMの形状や搭載パーツについて
①降雨レーダ
JAXAが開発した世界初の衛星搭載降雨レーダです。
台風の中の雨の強さを立体的に把握することができる画期的な性能を誇っています。
②TRMMマイクロ波放射計(TMI)
③可視赤外観測装置(VIRS)
④雷観測装置(LIS)
⑤CERES(雲および地球放射エネルギー観測装置)
仕様
TRMMの仕様・打上げ
打上げ質量 (Launch Mass) |
約3620kg (Approx. 3620kg) |
軌道(Orbit) | 高度 350km – 2001年8月から402.5kmに変更 (Altitude 350km – 402.5km after Aug. 2001) 太陽非同期円軌道 (Non-Sunsynchronous Circular Orbit) |
軌道傾斜角 (Orbit Inclination) |
約35°(Approx. 35 deg.) |
発生電力 (Electric Power) |
3300W |
姿勢制御方式 (Altitude Control) |
三軸姿勢制御ゼロモーメンタム方式 (Three Axis Zero-Momentum) |
データ速度 (Data Rate) |
32kbps – リアルタイム時 / 2Mbps – プレイバック時 |
観測機器(Instruments) | 降雨レーダ(Precipitation Radar) TRMMマイクロ波観測装置(TRMM Microwave Imager) 可視赤外観測装置(Visible Infrared Scanner) 雲及び地球放射エネルギー観測装置(Clouds and the Earth’s Radiant Energy System) 雷観測装置(Lightning Imaging Sensor) |
打上げ年月日 | 1997年11月28日 |
打上げロケット | H-IIロケット6号機 |
各センサ仕様
降雨レーダ Precipitation Radar(PR)
システム (System) |
レーダ方式 (Radar Type) |
アクティブフェーズドアレイ方式 (Active Phased-array Radar) |
周波数 (Frequency) |
13.796GHz及び13.802GHz (Two-channel frequency agility) |
|
観測高度範囲 (Observable Range) |
地表から高度15km以上 (From surface to a height ≧ 15km) |
|
距離分解能 (Range Resolution) |
250m | |
水平分解能 (Horizontal Resolution) |
4.3km(鉛直入射時 / at nadir) | |
検出可能降雨強度 (Sensitivity) |
0.7mm / hの降雨時に降雨頂でS / N=0dB以上 (S / N per pulse ≧ 0dB for 0.7mm / h rain at rain top) |
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独立サンプル数 (Number of Independant Samples) |
64 | |
データ速度(Data Rate) | 93.5kbps | |
質量(Weight) | 465kg | |
消費電力(Power) | 250W | |
アンテナ(Antenna) | 形式 (Antenna Type) |
128素子導波管スロットアレイアンテナ (128-element slotted waveguide array antenna) |
ビーム幅(Beam Width) | 0.71deg. x 0.71deg. | |
開口面(Aperture) | 2.1m x 2.1m | |
走査角(Scan Angle) | ± 17deg. | |
ゲイン(Gain) | 約47.4dB | |
送受信系 (Transmitter / Receiver) |
送信素子 (Transmitter Type) |
固体電力増幅器 (Solid-State Power Amplifiers) |
ピーク電力(Peak Power) | ≧ 500W | |
パルス幅(Pulse Width) | 1.6µs x 2ch. | |
パルス繰り返し周波数 (Pulse Repetition Frequency) |
2776Hz | |
ダイナミックレンジ (Dynamic Range) |
約81.5dB |
TRMMマイクロ波観測装置 TRMM Microwave Imager(TMI)
観測周波数 (Observation Frequency) |
10.65, 19.35, 21.30, 37, and 85.5GHz |
偏波(Polarization) | 垂直 / 水平(Vertical / Horizontal) |
水平分解能 (Horizontal Resolution) |
6 – 50km |
観測幅(Swath Width) | 760km |
走査モード (Scan Mode) |
コニカルスキャン 49° (Conical Scan 49deg.) |
データ速度(Data Rate) | 8.8kbps |
質量(Weight) | 65kg |
消費電力 (Power Consumption) |
50W |
可視赤外観測装置 Visible Infrared Scanner(VIRS)
観測バンド (Observation Band) |
0.63, 1.61, 3.75, 10.8 and 12µm |
水平分解能 (Horizontal Resolution) |
2km(at nadir) |
観測幅(Swath Width) | 720km |
走査モード(Scan Mode) | クロストラック(Cross-Track Scan) |
データ速度(Data Rate) | 50kbps |
質量(Weight) | 34.5kg |
消費電力 (Power Consumption) |
40W |
雲及び地球放射エネルギー観測装置 Clouds and the Earth’s Radiant Energy System(CERES)
観測バンド (Observation Band) |
0.3 – 5µm(Short Wave Channel) 8 – 12µm(Long Wave Channel) 0.3 > 50µm(Total Channel) |
水平分解能 (Horizontal Resolution) |
10km(at nadir) |
観測幅(Swath Width) | ± 80deg. |
走査モード(Scan Mode) | クロストラック(Cross-Track Scan) 二軸(Biaxial Scan) |
データ速度(Data Rate) | 9kbps |
質量(Weight) | 45kg |
消費電力 (Power Consumption) |
45W |
雷観測装置 Lightning Imaging Sensor(LIS)
観測バンド(Observation Band) | 0.77765µm |
水平分解能(Horizontal Resolution) | 4km(at nadir) |
観測幅(Swath Width) | 600km |
データ速度(Data Rate) | 6kbps |
質量(Weight) | 21kg |
消費電力(Power Consumption) | 42W |
関連情報
用語集
GPM
地球を見守る人工衛星
陸地、海洋、大気の状態を観測するための地球観測衛星です。災害や気候変動に対応するために、宇宙から私たちの地球を見守っています。
暮らしを支える人工衛星
通信を行ったり、測位(自分の位置を知る)を行ったりするための人工衛星です。新しい技術開発をするための人工衛星も作っています。
衛星プロジェクト ストーリー
人工衛星への熱き想い!
人工衛星は機械ですが、人工衛星を研究開発して運用するために、JAXAの宇宙開発の現場ではプロジェクトチームとして多くの人が協力して働いています。ここでは衛星プロジェクトを支えるストーリーを紹介します。ミッション遂行に向けた熱い想い、大変な話、感動する話、面白エピソード、普段聞けない裏話などなど。
ってだれが運営しているの?
サテライトナビゲーター(サテナビ)は、暮らしを支える人工衛星の開発・運用をしているJAXA第一宇宙技術部門が運営しています。JAXA第一宇宙技術部門の詳細についてはこちらへ。
JAXA 第一宇宙技術部門について