今回の「みちびく人々」は、天体の位置や動きなどから時代を読み取る占星術研究家としてグローバルにご活躍されている鏡リュウジさんに、この世界へみちびかれたエピソードから宇宙事業やGPSをはじめとする測位システムと占星術の関係性を聞いてみました。
Section 1
―― まずは準天頂衛星初号機「みちびき」とかけまして、占星術研究家へみちびかれたきっかけを教えて頂けますか?
鏡リュウジさん(以降、鏡):その前にちょっといいですか?(笑)
「準天頂衛星」の「準」ってどういう意味ですか?天頂ではないのですね?
―― 「ほぼ天頂」という意味です。準天頂衛星みちびきは、日本の天頂付近で特殊な8の字軌道を描くようになっています。
鏡:日本で有効活用するための軌道ですね。なるほど。
本題に戻りまして…導かれたものでしたね。
二つあります。まず一つ目は、10歳くらいの頃にタロットカードに出会ったのがはじまりです。当時タロットは西洋の魔術だとか、占星術に関係があると言われていたんです。子供の頃の好奇心や情熱からしだいに占星術へ興味を持つようになりました。幻想文化や神秘思想にも興味があったのですが、マーケット的には「星占い」のシェアが大きかった。高校生くらいからアルバイトで星占いの雑誌に文章を書いているうちに、意外と人気が出てしまったので、そのまま占星術研究家になってしまいました(笑)。
二つ目は「ユング」です。大学院ではユング心理学(※1)の研究をしながら、平行して占い関係の仕事も続けていました。心理学者で有名なユングは近代の学者の中で唯一の占星術研究者でもあります。実際に西洋占星術を実践していたという観点からも非常に親和性が高いと感じました。
※1 ユング心理学:カール・ユングは、スイスの精神科医・心理学者。深層心理について研究。分析心理学として存在するユング心理学とは、無意識と意識の統合を目指す心理学。
Section 2
―― 宇宙と占星術の関係性で面白いと感じるところは?
鏡:占星術が面白いと思うことの1つに、人類の歴史の中で宇宙観の変化を肌で実感できるという点があります。ホロスコープ(※2)を見ると分かるのですが、地球から見た太陽と月の距離が同じです。実際こんなことはあり得ないのですが、地球が宇宙の中心にあり、その周りが比較的距離の近い天球で覆われていて、さらにその中を5つの惑星がくっついて回っているという考えが元になっています。これはプトレマイオス(※3)の古い宇宙観から来るものです。
17世紀に入るとコペルニクス(※4)、ガリレオ(※5)、ケプラー(※6)、ニュートン(※7)の影響から天文学を中心に科学革命がおこり、ホロスコープ上で体現されている世界観が崩壊します。
いまでこそ宇宙の中心は地球ではないことや、宇宙はとてつもなく広いということはみんな知っています。しかし占星術では未だに古い宇宙観で成り立っています。よって占星術の世界観に対する定義に明るいほど、現代の宇宙観とのギャップを実感できるのです。それともう一つ。もともと占星術では7つの惑星だけを取り扱っていましたが、1781年に天王星が発見されました。
※2 ホロスコープ:占星術における各個人を占うための天体の配置図。惑星、黄道十二宮、十二室、角度の4つの要素で構成される。
※3 プトレマイオス:天文学者クラディオス・プトレマイオス(2世紀)
※4 コペルニクス:ポーランド出身の天文学者。当時主流だった地球中心説(天動説)を覆す太陽中心説(地動説)を唱えた。これは天文学史上最も重要な再発見とされる。
※5 ガリレオ:イタリアの物理学者、天文学者、哲学者である。その業績から天文学の父と称され、科学的手法の開拓者としても知られる。
※6 ケプラー:ドイツの天文学者。天体の運行法則に関する「ケプラーの法則」を唱えたことでよく知られている。理論的に天体の運動を解明したという点において、天体物理学者の先駆的存在だといえる。
※7 ニュートン:イングランドの自然哲学者、数学者。古典力学を確立し近代物理学の祖となった。ニュートンの力学としても有名である。
―― それはものすごいインパクトですよね。
鏡:そうなんです。
しかし、当時の占星術家たちは、「人間の意識が変わったから新しい星が出てきたのではないか?」と解釈したのです。この考え方は、因果関係から考えたものではなく、人間中心型の宇宙観と言えますね。
―― 古代の人々の宇宙の捉え方はどのようなものだったのでしょうか?
鏡:科学革命以前までは、宇宙は生き物として考えられていました。宇宙は世界の霊魂として、人間の魂と共鳴して形成されているとまで言われていて、人間の存在と宇宙との関わりを一種の生きているシステムとして捉えていたんでしょうね。
また日常生活では、太陽の高さを見て時間を測ったり、天体に浮かぶ星の位置で季節を感じたり、現代人よりも天体に関する知識や生活の中で利用される頻度は間違いなく多かったのではないかと思います。
占星術としての宇宙が一般の人たちへの広がりを見せたのは、やはり17世紀に入ってからだと思います。それまでは占星術は王侯貴族中心の文化でした。政治や戦争などに占星術は使われていたようです。
準天頂衛星初号機「みちびき」などに代表される技術の向上により、人間の生活が豊かになる反面、現代人は必然的に星を見なくても生きていけるようになったと思います。
天文学者の方と対談した際に、研究者でさえ星を見なくなったと仰っていらっしゃいました(笑)。実際に人間の目で見て判断できる位置にないので、肉眼で見るよりも探査機やコンピュータから打ち出される距離など、数値で目にすることが主になってくるのでしょうね。
Section 3
―― 鏡さんが日常的に利用しているGPSツールはありますか?
鏡:iPhoneや携帯電話などを使って地図の検索などはします。それから僕はすごく方向音痴なので、持ち運べるカーナビがあったら、どんなにいいだろうと思うことはあります(笑)。
実は、以前そこまでGPS端末精度が高くなかった頃に「GPS占い」のお話は頂いていたのですが…。今後、準天頂衛星「みちびき」の登場で、より正確な配置が分かるようになるのであれば、そういったコンテンツには興味がありますね(笑)。
例えばiPhoneアプリのコンパス機能を使って自分の見ている方向の星座を3Dで表示してくれる「Sky Walk」というソフトがあります。これを使ってリアルな天体からより正確な位置を測定・算出し、導き出した結果を占星術に反映できたら面白いですよね。
―― 準天頂衛星システムは日本発のプロジェクトになりますが、海外からみる日本の技術という視点では、どのように感じられますか?
鏡:やはり日本のテクノロジーに対する信頼というものは、すごくあると思います。イギリスと日本を比較すると、イギリスはテクノロジー方面では普及が遅いと感じますね。パソコンやインターネットの普及はものすごく遅かったですし、未だにイギリスの講座など資料を使う発表の場では、パソコンからプロジェクタへ繋げるのではなく、OHP(※8)を使っていますからね(笑)。
※8 OHP:オーバーヘッドプロジェクタは、明るい光源と冷却ファンを内蔵した箱に、レンズが付属した投影装置。箱の上においた資料をスクリーンに投影する。
Section 4
―― 話は変わりますが人工衛星は占星術に影響するものなのでしょうか?
鏡:まず、占星術家には、伝統的な7つの惑星のみを使う人、小惑星を使っている人など何万タイプもいます。つまりタイプによって受け止め方は変わるというのが答えになるでしょうか。
占星術には二つの考えがあるんです。ひとつは因果論的なもの。宇宙の何かしらの力が地上に働いて、影響を及ぼすというもの。もうひとつは「照応」という考え方。天に存在するものと地上にあるものが、まるで鏡写しのように互いに象徴のレベルで反映しあっている、という考え方です。
Last Section
―― 最後になりましたが、準天頂衛星初号機「みちびき」について、ここ最近の星の動きから読み取れるものはありますか?
鏡:2008年9月頃のリーマンショック以来、星の動きがざわざわしていて、ホロスコープ上でも社会経済に影響するようなハードアングルが目立ちました。
ただ、2010年夏頃から来年にかけて、拡大と発展を意味する「木星」と現代技術を意味する「天王星」が、地球からの観測において接近して見えるようになります。これは、宇宙事業の発展を意味するとも読み取れますね。
―― 「みちびき」の運勢を占って頂き、良い結果に一同ひと安心。鏡さん、ありがとうございました!
鏡リュウジ プロフィール
占星術研究家・翻訳家。
国際基督教大学卒業、同大学院修士課程修了(比較文化)。雑誌、テレビ、ラジオなど幅広いメデイアで活躍、とくに占星術、占いに対しての心理学的アプローチを日本に紹介、幅広い層から圧倒的な支持を受け、従来の『占い』のイメージを一新する。英国占星術協会、英国職業占星術協会会員。日本トランスパーソナル学会理事。平安女学院大学客員教授。