人工衛星が宇宙において、しっかりとその役目を果たすためには、地上で衛星の健康状態を確認しつつコントロールする必要があります。これがいわゆる衛星の『運用』であり、人工衛星からの電波を受信して人工衛星の位置や姿勢、搭載している機器が正しく機能しているかどうかを確認し、状況や計画に応じて、人工衛星に対してコマンド(指令)電波を送信します。
これは衛星が打ち上げられてからその役目を終えるまでの間、毎日行われ続ける息の長い仕事です。特にみちびきの場合、初期機能確認が終わり定常運用段階になると衛星から常に測位信号を出し続けるために、24時間、365日が真剣勝負といったところです。
みちびきの運用は筑波宇宙センターにある運用管制室で行っています。写真はみちびき打上げ時の運用管制室の様子です。
みちびきとの電波の送受信を行うアンテナは、打上げから準天頂衛星軌道投入まではJAXA追跡管制システムの地上ネットワーク局(GN局:勝浦、増田、沖縄、パース、サンチャゴ、マスパロマス)のアンテナを使用しました。
初期機能確認以降は、JAXA沖縄宇宙通信所にある、みちびき専用のアンテナを使っています。このアンテナはみちびきを常時運用するためのアンテナとして、新規に整備したもので、台風などの荒天対策としてレドームが付いています。操作はみちびきの運用室がある筑波宇宙センターから遠隔で行っています。
項目 | 設計値 |
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アンテナ形式 | カセグレンアンテナ |
アンテナ口径 | 7.6m (レドーム直径約14m) |
周波数帯域 | 5GHz (C帯) |
要求稼働率 | 99.5%以上 |
耐風速 | 90m/sec以上 |
なぜみちびき専用のアンテナを、沖縄に整備したのかについては、みちびきさんが答えてくれています。
みちびきの運用の特徴として、軌道を修正するための制御運用の頻度が少ない点があります。人工衛星は軌道制御をすると、その後に正確な位置を計算する時間が必要になります。その時間結果が出るまでは、測位信号に必要となる正確な位置がわからないため、その間はユーザに測位信号のサービスを提供することができなくなってしまいます。みちびきでは、少しでも長く測位信号を出し続けるために軌道制御運用をできるだけ少なくする運用を行います。
また、みちびきは赤道に対して大きく傾いた軌道である関係で、太陽から太陽電池パドルへの光の入射角が季節により変わります。パドルに対して直角に太陽光が入射すると発生する電力が最大となるのですが、入射角が浅くなると発生する電力が小さくなってしまいます。このため、太陽光の入射角が浅くなる時期には、太陽電池パドルに太陽光が十分当てるようにみちびきの姿勢を地球方向を軸として回転させる運用を行います。この運用をヨーステアリング運用と呼んでいます。この運用により、みちびきは1年間を通して安定した電力を確保することができます。
このようにみちびきの特徴に対応した運用を行うことで、地上にいる利用者が安心して使える測位サービスの提供を実現します。
次に衛星測位システムが働くための『地上設備』についてご紹介します。
もちろん原子時計などの衛星に搭載している機器は欠かすことができません。しかし、衛星と同じく重要なのは地上に作られるさまざまな設備です。地上系の設備は、衛星の軌道や時刻を管理し、位置を計算するために必要な情報の元を作り衛星に送るという、高精度な測位を行うための重要な役割があります。
国内外9ヵ所におかれたモニタ実験局では、準天頂衛星・GPSの測位信号を観測し、衛星とモニタ実験局の距離を測定、マスターコントロール実験局に送ります。
全てのシステム(衛星、マスターコントロール実験局、モニタ実験局など)を管理・監視します。
モニタ実験局で受信、送られてくる観測データから、衛星の軌道、時刻を計算し、測位信号の元となる情報を作り、衛星に送信します。
マスターコントロール実験局から送られてきた情報をみちびきに送信します。
衛星に積まれた超精密な時計が刻む基準信号に、位置を計算するための情報などを載せた信号を作って送信します。
この他に、国土地理院の電子基準点網※1や、情報通信研究機構(NICT)の日本標準時刻設備、JAXAの高精度軌道決定システムのSLR(レーザ測距局)※2など、現在稼動中の設備も利用して効率的にシステムを構成しています。
※1 電子基準点網:電子基準点= 国土地理院が管理する、全国約1200地点の基準点。GPSデータを受信して地殻変動の監視や測量などの基準、GPS相対測位用の基準局に利用されています。
※2 レーザ測距局:SLR(Satellite Laser Ranging)=衛星からのレーザを受信することで、衛星の位置を高精度に管理できる設備。衛星の軌道を正確に求めることで、地球の重力ばらつきや、形状を正確に求めるのに使われています。