未来の都心は今以上に高層ビルが立ち並び、もっと空は狭くなるかもしれない・・・でも未来の空には、朝も、昼も、夜も、真上に準天頂衛星がいて、われわれを見守ってくれます。みちびきが日本の真上の空にいることで、私たちの生活にどのようなメリットがあり、どのような未来がもたらされるのでしょうか。
日本は、他の国と比べて国土の大部分を山地が占めており、少ない平地には都市が集中するという地理環境をしています。山間部では森林や崖、都市部では高層ビルや集合住宅等が建ち並び、そのため、見える衛星の数(受信できる衛星数)が限られてしまうことがあります。
準天頂衛星システム(以降:QZSS)は、複数の衛星のうち少なくとも1機の準天頂衛星が日本の上空(ほぼ真上)に位置するように構成されているので、これまで山やビルなどによって測位を行うために必要な衛星数が揃わなかった場所でも、準天頂衛星を加えることで測位が可能になります。
衛星測位を行う為には、最低4機(2次元測位では3衛星)が必要ですが、場所や時間によっては十分な衛星数が確保できない場合があります。これまで衛星が 3機しか見えず測位が出来なかった場合でも、準天頂衛星が1機加わることによって測位が可能となる時間や場所が大きく広がり、より高精度な位置情報を得ることができます。(=アベイラビリティの向上)
QZSSは、GPSと組み合わせることでGPSのアベイラビリティ※1や測位精度を改善する効果があり、利用の効率や精度が重要となる緊急通報、災害対策など、私たちのQoL(生活の質)を向上させるさまざまなメリットが期待されています。
また、準天頂衛星に加え、3機以上の測位用の静止衛星を打上げることにより、日本の衛星のみで高精度で安定した測位が可能となります。日本の衛星のみで高精度な測位を行うことができれば、「測位の自在性」が確保され、地理環境や利用用途など、日本に適した自在な測位利用が可能になります。
※1 アベイラビリティ:測位をするために必要な、4機以上の衛星を捕らえることができる時間率。
「我が国における衛星測位システムのあり方について」の中間整理では、「GPSとの互換性、相互の運用性を保ちながら、段階的に"自立可能な日本の衛星測位システム"を主体的に構築し、継続的な運用を目指す。」と示されており、準天頂衛星システムはその第一歩として期待されています。
列車の運行は、約200m毎に"今どこの線路上にいる"という情報を運行管理センター送り、管理されています。この情報は線路を電気回路として、その上を通過する電車がスイッチの役割を果たして、ある特定の線路上に電車がいるという情報が生成されます。そのため、線路に設置されたこの装置を定期的にメンテナンスすることが必要となりますが、メンテナンスは多くの人が現場で行うため、その費用は非常に高く、保守作業も大変な労力となっています。特に、人口の少ない地方の路線では、都市部に比べて利用者数が少ない上に、路線の長さも長く、このメンテナンスコストが経営の大きな負担になっています。
例えば、列車の位置検知に衛星測位を利用した場合、地上のインフラである列車位置検知設備を削減し、保守費用を削減できるだけでなく、円滑な運行管理や、電車の位置をお客さんに伝え、遅延や事故の際の混乱が緩和されるということも期待されています。また、保守の作業員や作業車両双方に衛星測位受信機を装備することで、作業中の事故防止システムとして利用することも可能となります。
乗り物等の交通機関で衛星信号を利用する場合、その測位信号が信用できるものであるかを判別する情報[=インテグリティ(完全性)情報]を使ってより高い信頼度、安全性を確保します。
携帯電話は、今やほとんどの人が持つコミュニケーションツールであり、私たちの生活に欠かせないものです。自由に利用できる反面、"どこからでもかけられる"ということで起きている問題が、緊急通報です。
すでに全体の約半数の通報が携帯電話からの通報で、掛けている人も興奮状態であることが多く、一刻を争う緊急事態で場所の特定に時間がかかるという問題があります。
例えば、緊急時に位置を特定する際、携帯から準天頂衛星をキャッチし、測位を行うために最適なGPSを瞬時に計算し、高精度の測位情報を緊急通報と同時に送ることができれば、ピンポイントですばやく位置が特定でき、救急車や消防車、警察がすぐに駆けつけることができます。
緊急時は、より速く、より的確に情報を伝えることが要求されることから、準天頂衛星が果たす役割は大きいと考えています。
米国では、E911(E=Enhanced)が法制度化され、緊急通報の際に発信者の場所も同時に送信することが既に義務付けられています。日本の119は、米国の911を逆にしたものと言われています。
日本でも、緊急通報の際に発信者の位置を通知することが義務化され、警察、消防、海上保安庁へ携帯電話をかけたときに、発信者がどこにいるのか、その位置情報を自動的に通知するシステム「緊急通報位置通知」の運用が2007年4月からスタートしました。
犯罪を効果的に防止するには、犯罪が起こりそうなところを警備することが効果的です。登下校中の児童を見守るシステムとして、児童にGPSロガーを持たせて、行動パターンを調べ、犯罪防止に役立てようという研究があります。
犯罪防止は、人口密度の高い都市部が重要ですが、高層ビルが多い都市部などでは建物が電波の受信を邪魔したり、本来受信するはずのない反射波の影響を受けたりするため、現行のGPSでは500メートル程度の位置の誤差が出ることもあるといいます。
みちびきの信号は天頂付近から届くため、マルチパス・反射波の影響を受けにくくなります。マルチパスなどの影響が少ないGPS衛星と組み合わせると、都市部でも誤差を10メートル程度に抑えられる可能性があり、とても期待されています。