2010年9月11日に打ち上げられた、準天頂衛星 初号機 「みちびき」。
『準天頂衛星システム』は準天頂衛星と地上システムから構成され、初号機を使った実証実験はその第1段階となります。
今回のQZナビでは、現在にいたるまでの道のりをたどってみましょう。
準天頂衛星システムの当初の計画は、通信・放送・測位の3つの分野のサービスを融合したものでした。その計画は、民間の提案からスタートし、官(=国)民(=民間)の連携によって推進され、民間が衛星の開発と通信・放送分野の事業化を行い、測位分野はJAXAをはじめとする国の研究開発機関が、高精度な測位システムの実現に必要な技術開発とその実証を担当し、民間がその事業化を行う予定でした。
その後、通信・放送分野における民間事業化断念を受けて、準天頂衛星システム計画の見直しが行われました。その結果、衛星測位の重要性等を考え、まず、国が主体となって測位単独の『準天頂衛星システム計画』を立ち上げることになりました。
平成18年3月31日に「準天頂衛星システム計画の推進に係る基本方針(測位・地理情報システム等推進会議)」が示され、これに基づき、準天頂衛星システムは、段階的に計画を推進することとなり、まず第1段階として、1機の準天頂衛星により、GPS補完・補強に関する技術実証・利用実証を行うことになりました。
さらに、第1段階の技術実証・利用実証に引き続き、第1段階の結果の評価を行った上で、初号機を含めた3機の準天頂衛星によるシステム実証を行う第2段階へと進む計画です。
「準天頂衛星システム計画の推進に係る基本方針」の要旨
- 第1段階として、測位単独衛星1機を打上げ、技術実証、利用実証を行う。
- 第1段階は、文部科学省が総務省、経済産業省、国土交通省の協力を得て取りまとめ担当となり、計画を推進する。
- 1号機打上げ後、軌道上実証結果を評価の上、第2段階への移行を判断する。
- 第2段階は、3機体制によるシステム実証を行う。
準天頂衛星システム計画の第1段階は、文部科学省が取りまとめ担当となり、総務省、経済産業省、国土交通省の協力を得て計画を推進しています。
JAXAは第1段階の準天頂衛星の整備運用を担当しており、関係研究機関と協力して、「高精度測位実験システム」という、より高精度な測位を可能にするための実験システムの開発、準天頂衛星バスシステム及び追跡管制システムの整備、運用を行うとともに、システム全体の取りまとめを行っています。
「みちびき」から放送される測位信号を用いたアプリケーションの実証を行う利用実証については、文部科学省がとりまとめで、利用府省庁と民間が実験を行う計画です。民間の利用実証については、(財)衛星測位利用推進センター(SPAC)がとりまとめを行い、主にGPS補強信号を用いた利用実証実験を公募、43チーム(延べ101機関)から58テーマで実験を行う予定です。
機関 | 担当 | |
---|---|---|
文部科学省 | 宇宙航空研究開発機構 (JAXA) |
-高精度測位実験システムの開発取りまとめ -GPS補完技術の開発・実証 -準天頂衛星初号機バスシステム開発取りまとめ -準天頂衛星初号機追跡管制システム開発取りまとめ -準天頂衛星初号機打上げ及び軌道上運用 |
総務省 | 情報通信研究機構 (NICT) |
-時刻管理系の開発及び軌道上実証 |
経済産業省 | 産業技術総合研究所 (AIST) |
-測位用擬似時計技術の開発・実証 |
国土交通省 | 電子航法研究所(ENRI) 国土地理院(GSI) |
-広域DGPS補強技術の開発・実証 -高精度補正技術の開発・実証 |
平成22年9月11日に打ち上げられた「みちびき」は、打ち上げ後3ヶ月間の初期機能確認の後に、関係機関と協力して実証実験を行っていきます。
また、平成22年8月27日には準天頂衛星2号機以降の開発への移行に関する方針等、準天頂衛星の開発及び利用に関する重要事項の検討を行うため、内閣官房宇宙開発戦略本部に、準天頂衛星に関するプロジェクトチームが設置されました。
では、GPSはどのようにして開発が進められてきたのでしょうか?GPSの歴史を振り返ってみましょう。
GPSがなかった頃、自分がどこにいるのか、行きたい場所がどれぐらい離れているのかを精度良く知ることは容易なことではありませんでした。1957年、ソ連(現:ロシア)が初の人工衛星「スプートニク1号」の打上げに成功し、ドップラー効果を利用した衛星の追跡手法の原理が確認され、衛星からの信号による"地上受信者の位置"の算出が実現可能なことが明らかとなりました。1960年代米国では、ドップラー方式を利用した衛星による測位(衛星航法)を確立するため、TRANSIT衛星が次々に打上げられ、NNSS(Navy Navigation Satellite System)と呼ばれる衛星測位システムが誕生しました。
その一方で、1949年に米国で開発に成功した、最も正確に時間を刻むといわれている『原子時計』の開発が着々と進められ、その後、1965年頃までにはセシウム原子やルビジウム原子を用いてより精度・安定度が高いものになっていました。
1967年、これまでのドップラー方式を利用した測位とは違い、正確な時間(時計)を持つ衛星と地上とで通信を行い、その時刻差により衛星と受信機間の距離を正確に算出できるTIMATION衛星が打上げられました。(初期のTIMATION衛星は、原子時計ではなく水晶発振の時計を搭載していました。地上では原子時計の開発が進められていましたが、衛星搭載用の原子時計が開発されるまでにはまだしばらく時間が必要だったのです。)
これら海軍が推進する計画に加えて、空軍でも同様の原理を用い、また現在のGPSにも採用された信号変調方式を用いた衛星測位システムの研究開発が進められ、航空機やバルーンに搭載した送信機を用いた実験が繰り返されていました。
1973年、米国防総省は、海軍、空軍の計画を統合、GPSの開発を決定し、JPO(Joint Program Office)を設立しました。このように、開発当初のGPSの利用目的は、純粋な軍事利用でした。
1974年、TIMATION衛星の3番手としてNTS-1、また、1977年にはNTS-2が打上げられました。このNTS衛星は現在のGPSを構成するNAVSTAR衛星の前段階の実験衛星となった衛星で初めて搭載用の原子時計が採用されました。(NTS-1でルビジウム、NTS-2でセシウムの原子時計を搭載しています。)
1978年から、試作開発用のNAVSTAR衛星(Block I)が11機打上げられ、テストが行われました。(11機のうち1機が打ち上げに失敗、Block Iシリーズの衛星の設計寿命は3年でした。)
実際にGPSを構成するNAVSTAR衛星の開発と展開は、予算削減や当初打ち上げに使う予定だったスペースシャトルの事故の影響で大きく遅れることになりましたが、1989年から後続の新型機であるBlock II、Block IIA、Block IIRが次々と打上げられ、ついに1993年、運用中の試作開発用の衛星と合わせて24機目の衛星が打ち上がりGPSが完成、1993年12月8日に民生利用のシステム要求が満たす性能に達したことが宣言されました(初期運用宣言(IOC:Initial Operational Capability))。さらに、1995年4月27日には、実運用衛星であるBlock II/IIAが24機揃って、軍事利用のシステム要求を満たす性能に達したことを示す完全運用宣言(FOC:Full Operational Capability)が発表されています。
GPSの民生利用開放については、1983年の大韓航空機撃墜事件発生を受けて、GPSが運用を開始したら民間航空機の安全航行のための使用を認めることを、レーガン大統領が表明したことから始まったと言われています。この後、国際民間航空機関(ICAO)に対する民生航空利用へのGPSの民生サービス公開に始まり、ついに1996年3月には、米国GPS政策によって『GPSを直接課金することなく全世界に開放する』ことが発表され、受信機さえあれば、誰でも自由にGPSの民生用信号を利用できるようになりました。ただし、この当時はまだGPSの利用の第一目的は軍事利用であったため、GPSの精度を意図的に劣化させる SA(Selective Availability)と呼ばれる処置が施されていました。
その後、カーナビゲーションなど私たちの生活の様々な場面で活用されるようになりました。また、位置情報の誤差を補正する技術や受信機の性能もどんどん進歩していきました。
2000年5月には、GPSの精度を意図的に劣化させていたSAが廃止され、GPSの精度は従来の10倍以上向上しました。
GPSと準天頂衛星システムの関係については、QZナビVol.03を参照してください。