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2024.10.21(月)

「EarthCARE」衛星(はくりゅう)の
新たなシナジー画像を紹介します!

2024年5月に打ち上げられたはくりゅうは、日本と欧州宇宙機関(ESA)の国際協力ミッションです。はくりゅうには、「レーダ」「ライダ」「イメージャ」および「放射収支計」という観測方式の異なる4種類のセンサが搭載されています。はくりゅうの観測の特徴は、これらの4つのセンサでひとつの対象地点を同時に観測する「シナジー観測」です。

JAXAは2024年10月4日に、はくりゅうのシナジー観測によって得られた「雲シナジー初画像」を公開しました。今回は、第75回国際宇宙会議(IAC、詳細は後述)にて発表されたESAのシナジー画像を紹介します(図1~4)。特筆すべき内容としては、「放射シナジー画像」(図4)が、はくりゅうの4つのセンサを組み合わせて初めて公開する画像となります。

地球の気候は、地球が太陽から受け取るエネルギー量と、地球から宇宙に放出されるエネルギー量のバランス(放射収支)によって決まります。大気中の雲やエアロゾルは、太陽からのエネルギーを宇宙へ跳ね返したり、逆に地球からエネルギーが宇宙へ逃げていくのを防いだりする役割があり、地球の安定した気温を維持するために不可欠なものです。しかし、地球に入ってくるエネルギーと宇宙へ出ていくエネルギーとの相互作用は非常に複雑で、特に雲やエアロゾルの効果がどれくらい作用するのか、またこれらがどのように気候変動に影響しているのかなど、定量的に解明されていないことも多いのが現状です。

ここでは、9月18日に、中央ヨーロッパからスウェーデンまでの広範囲ではくりゅうが観測した結果(図1)について説明します。図2~4は動画(図1)のハイライトシーンを示しています。

図1:” EarthCARE in synergy” (c)ESA

■はくりゅうが欧州で観測した雲やエアロゾルの観測画像の解説

図2:CPRが観測する雪・雨・雹 (c)ESA

JAXAが情報通信研究機構(NICT)と開発した雲プロファイリングレーダ(CPR)は、雲の鉛直分布や内部構造を示します。ESAが開発した、大気ライダ(ATLID)はエアロゾルや薄い雲の鉛直分布を提供し、多波長イメージャ(MSI)は複数の波長で水平方向の雲やエアロゾルの広がりを提供し、広帯域放射収支計(BBR)は太陽放射と地球放射の収支を測定します。

図1の動画ではまず、CPRが観測するイタリア北部とコルシカ島での最近の雷雲に焦点を当てています(図2)。この雷雲は中央ヨーロッパの一部に甚大な被害をもたらした嵐「ボリス(Boris)」に伴い発生したもので、イタリアのエミリア・ロマーニャ州では深刻な洪水を引き起こしました。

図3では、ATLIDの観測を示しています。ATLIDによって雲頂部1~2km の層をより詳細に検出し、雲頂の雲氷の層といった重要な雲内部の構造を明らかにしています。

図3:ATLIDが観測するエアロゾルと薄い雲 (c)ESA

このようにCPRとATLIDはそれぞれ異なる特徴の雲を観測することができます。CPRとATLIDのシナジー観測のメリットは、双方のセンサが観測可能な雲の範囲を補完しあい、より正確な雲の特性を把握できることです。

図3の右側に注目すると、スウェーデン上空の高高度にある巻雲を検出していることがわかります。これらの雲は薄いため、太陽光を透過して地球の表面を温める一方で、地球の表面から放出される熱を閉じ込めて宇宙に逃げるのを防ぐ役割もあるため、気候科学にとって特に重要です。高度の高い雲や低い雲もあれば、薄くて太陽光を通す雲や分厚く太陽光を遮る雲があるように、雲の特性はさまざまです。このシナジー観測によって地球上のさまざまな雲を観測し、どんな雲がどの場所で大気を温め、または冷やしているのかを特定することができます。

図4:はくりゅうの放射シナジー画像 (c)ESA

さらに、はくりゅうの4つのセンサを組み合わせることで、どのように大気が加熱されるかを推定する放射シナジー観測を行うことができます(図4)。この事例では巻雲による大気の加熱効果(赤色系の色塗)は、全体的に特に雲の上層部で顕著であり、雲が宇宙からの太陽放射と地表からの熱放射の両方を吸収することで大気を加熱します。一方で、雲の密度が高くなっている場所では、地球からの熱放射が遮られ、逆に雲頂からは宇宙に熱が放出されるため大気を冷却する効果がはたらきます(青色系の色塗)。

このような大気の放射に関する効果は、はくりゅうのシナジー観測によって詳細に定量化することが期待できます。

■第75回国際宇宙会議(International Astronautical Congress; IAC)でのはくりゅう関連イベントについて

2024年10月14日から18日にかけてイタリア・ミラノで開催されている第75回国際宇宙会議(International Astronautical Congress; IAC)にて、雲エアロゾル放射ミッション「EarthCARE」衛星(はくりゅう)の雲エアロゾルシナジー画像が欧州宇宙機関(ESA)より公開されました(図5)。イベントの写真はX(twitter)からもご覧になれます。

ESA Simonetta Cheli地球観測局長のコメント:
「はくりゅうのミッションはまだ初期運用の段階であるにもかかわらず、本日発表したこの雲エアロゾルシナジー観測の成果は本当に注目に値すると思います。」

JAXA前島弘則地球観測統括のコメント:
「4つのセンサからの観測データを組み合わせることで、はくりゅうはさまざまな種類の雲、エアロゾル、およびそれらの気候への影響を捉えることができます。この成果はまさにESAとJAXAの協力の象徴です。」

ESA EarthCAREミッションサイエンティスト Thorsten Fehr 氏のコメント:
「運用初期段階で本日このデータが公開されたことは、EarthCARE チームやこれらのデータプロダクトを開発した科学者たちの優れた仕事の証です。EarthCAREは雲とエアロゾルの両方を同時観測し、それらが気候に与える影響を前例のない方法で評価できます。これは数ある地球観測衛星の中でも EarthCARE にしかできないことです。」

図5 IACでのESAシナジー画像の発表イベント

(参考)本記事の詳細はESAの記事をご覧ください。
https://www.esa.int/Applications/Observing_the_Earth/FutureEO/EarthCARE/EarthCARE_synergy_reveals_power_of_clouds_and_aerosols

JAXAの雲シナジー初画像のサテナビ記事:
「はくりゅうによるシナジー雲画像の公開 ~複数センサを組み合わせることにより実現する精緻な雲観測~」
https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/news/2024/10/04/9923/index.html

雲シナジー初画像公開の記者説明会(2024年10月4日):
https://www.youtube.com/watch?v=HBW59r1Gm5g

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