ミッション
世界的な気候変動研究に貢献する
みどりIIは、衛星本体が約4×4×6メートル、太陽電池パドルを展開すると横方向に約28メートルにもなり、日本が開発した人工衛星の中でも最大級の大きさです。 データ中継用アンテナや太陽電池パドルなどの衛星運用のために必要なバスモジュールの他、地球観測センサなどのミッションモジュールを搭載しました。
ミッション
みどりIIは、世界的な気候変動研究に貢献することを目的として、2002年12月14日に打ち上げられました。 クロロフィルの分布や、水蒸気、海氷分布、海面温度等で、多くの観測データを取得し、2003年10月25日に運用を停止しました。 これらの観測データは、国際気候共同研究計画(WCRP)の全球エネルギー・水循環実験計画(GEWEX)や気候変動研究計画(CLIVAR)ならびに地球圏・生物圏国際共同研究計画(IGBP)などに利用されています。 みどりIIにより得られた成果は、2003年の11月にまとめられたレポートをもとに整理されていますので、以下に紹介します。
これまでに得られた成果
観測センサ | 目的 | 成果 | |
マイクロ波放射計(AMSR: Advanced Microwave Scanning Radiometer) | 陸域の土壌水分観測(世界初) | 広域の定量観測が難しかった陸域の土壌水分観測(世界初) | |
全天候下での海面温度観測(世界唯一) | Aqua搭載のAMSR-Eとともに、全球の海面水温を雲を透過して観測 | ||
極域海氷分布の観測 | 地球温暖化とも密接な関係のある極域の海氷分布変化や、流出した巨大氷山の動きを連続観測 | ||
オホーツク海の流氷観測 | 海氷の動きや密接度を、天候に影響されず連続観測。船舶航行への有用な情報として提供 | ||
台風や低気圧の観測 | 2003年9月に宮古島に多大な被害を残した「マエミー」など、台風の定量的な連続観測を実施 | ||
グローバルイメージャ(GLI: Global Imager) | 大気エアロゾル観測(世界初) | 陸上のエアロゾル(大気中の微粒子)の全球分布を世界で初めて1km解像度で取得(地表反射光観測装置(POLDER)では4kmで取得 / オゾン全量分光計(TOMS)では40kmで取得) | |
雪氷観測(世界初) | 極域の積雪粒径、積雪不純物など地球温暖化に関係する新しい成果を世界で初めて取得 | ||
全球陸域詳細観測(全球観測では最も詳細) | 250mの詳細な分解能で全球にわたって陸域観測を実施 | ||
海洋観測(1) | 海面水温、クロロフィル濃度及びこれらから導出される海洋基礎生産力(二酸化炭素の吸収指標となる)を観測 | ||
海洋観測(2) | 春~夏季の日本近海(日本海・東北沖太平洋・オホーツク海)におけるブルーミング(プランクトンの急激な増加)の遷移を観測 |
技術
- 「みどりII」センサ高性能マイクロ波放射計(AMSR)
- ADEOS-II「みどりII」センサグローバルイメージ(GLI)
「みどりII」で使われている技術
地球上の水に関する諸々の物理量を観測することを目的とするAMSR、陸域、海域を含めた地球表面及び雲からの太陽反射光あるいは赤外放射光をグローバルかつ高頻度で観測するGLIを搭載しています。
「みどりII」センサ高性能マイクロ波放射計(AMSR)
AMSRは、JAXAが開発した高性能マイクロ波放射計です。マイクロ波放射計とは、電磁波のうちマイクロ波の放射を計測する機器のことを言いす。 AMSRは、地表及び大気から自然に放射される微弱なマイクロ波をマルチバンドで受信することで、水(H2O)に関する様々な物理量(たとえば水蒸気量、降水量、海面水温、海上風、海氷など)を昼夜の別なく観測できます。 また、雲の有無によらずに、高い精度で観測を行うことができるため全地球規模の水循環を把握するためのデータを取得することを目的としています。 AMSRは、6.9GHz帯から89GHz帯までの8周波数帯を、垂直・水平偏波(但し50GHz帯は垂直偏波のみ)で観測する全電力型のマイクロ波放射計で、アンテナ等を機械的に回転させ走査することにより、地表等の放射輝度データを取得します。
AMSRのアンテナには、アンテナ開口径2mの世界最大級となるオフセットパラボラを採用し、最も波長の短い89GHz帯では約5km、最も波長の長い6.9GHz帯でも約60kmの空間分解能のデータを取得できます。 また、地表入射角を55度で一定となるようにコニカル走査を行い、海面水温に対する海上風の影響を小さくするとともに1600kmという広観測幅を達成しています。 さらに、観測データを校正するために深宇宙の輝度温度(約2.7K)を取得する機能及び高温校正源を持っています。
[科学目的]
AMSRなどのマイクロ波放射計の特徴は、昼夜の別なく、ほぼ全天候で定量的な物理量を得ることができることにあります。
AMSRでは14チャンネルのデータを組み合わせて、地球上の水に関する諸々の物理量を観測することを目的としています。すなわち、
・大気中の積算水蒸気量、および積算雲水量(共に海上のみ)
・降水量
・積雪量
・土壌水分量
・海洋上の風速、海面水温
・海氷分布
などの観測です。
マイクロ波放射計では最大となるアンテナを採用することで、周波数6.9GHzの低周波数においても実用的な空間分解能を得ることが可能となりました。 低周波数の観測によって、海面水温、土壌水分量など、従来のマイクロ波放射計では観測できなかった地表面の水に関する物理量を把握できるようになります得ます。
従来よりマイクロ波放射計の観測対象となる水蒸気量、雲水量、降水量等の観測においても、AMSRでは高い空間分解能によって観測精度が向上します。
また、高周波についても、特に89GHzのデータから、中・高緯度地方の凍土、雪氷面の融解などの物理的な性質が高空間分解能で得られ、5km程度の空間スケールの現象が解析できます。
ADEOS-II「みどりII」センサグローバルイメージ(GLI)
GLIは陸域、海域を含めた地球表面及び雲からの太陽反射光あるいは赤外放射光をグローバルかつ高頻度で観測し、 クロロフィル濃度、溶存有機物、表面温度、植生分布、植生バイオマス、雪氷分布、雪氷アルベドなどの物理量を測定することを目的とした光学センサです。 GLIが取得する観測データは、炭素のグローバルな循環の把握、気候変動の指標である雲、雪氷、海面温度のモニタリング、海洋基礎生産力の把握などに貢献しています。 これは、1996年に打上げられた「みどり」(ADEOS)に搭載された海色海温走査放射計(OCTS)による観測ミッションを引継ぐもので、より観測の精度を向上させ・観測対象を広げています。
GLIは可視近赤外域(VNIR)に23チャンネル、短波長赤外域(SWIR)に6チャンネル、中間・熱赤外域(MTIR)に7チャンネルを持ち、マルチスペクトル観測を行います。 地表分解能は直下点で1kmで、VNIR、SWIRの一部のチャンネルは直下点で250mの分解能を持ち、植生や雲の観測に用いられています。 1走査での観測範囲は進行方向に12画素(12km)、クロストラック方向に1600kmです。 クロストラック方向の走査は、両面ミラーを機械的に回転させることにより行います。 また、観測視野を進行方向に約+20°、あるいは、約-20°変移させるチルト機能を持ちます。
仕様
「みどりII」の仕様・打上げ
外観 | 一翼式太陽電池パドルを有するモジュール式 | |
寸法 | 本体 (X軸×Y軸×Z軸) | 約5×4×4m |
太陽電池パドル | 約3×24m | |
質量 | 3680kg(うち搭載ミッション機器 1230kg) | |
設計寿命 | 3年 | |
燃料 | 5年分 | |
軌道 | 種類 | 太陽同期準回帰軌道 |
軌道高度 | 802.9km | |
軌道傾斜角 | 98.62度 | |
周期 | 101分 | |
回帰日数 | 4日 | |
降交点地方時 | AM10:30±15 | |
打上げ年月日 | 2002年12月14日 | |
打上げロケット | H-IIAロケット4号機 | |
打上げ場所 | 種子島宇宙センター |
各センサ仕様
AMSR 高性能マイクロ波放射計
周波数(GHz) | 6.9 | 10.65 | 18.7 | 23.8 | 36.5 | 89.0 | 50.3 | 52.8 |
地上分解能(km) | 50 | 25 | 15 | 5 | 10 | |||
バンド幅(MHz) | 350 | 100 | 200 | 400 | 1000 | 3000 | 200 | 400 |
偏波 | 水平および垂直 | 垂直 | ||||||
入射角 | 約55度 | |||||||
交差偏波特性 | -20dB以下 | |||||||
観測幅 | 1600km | |||||||
ダイナミックレンジ | 2.7 – 340K | |||||||
絶対精度 | 1K(1s)目標 | |||||||
偏波 | 0.3 – 1.0K(1s) | 2K(1s) | ||||||
バンド幅(MHz) | 12bit | 10bit |
GLI グローバルイメージャ
観測波長帯 | 0.375 – 12.5mm |
観測バンド数 | 36 |
波長幅 | 10nm(VNIR/1km) |
瞬時視野角 | 1.25mrad & 312.5mrad(1km & 250m直下点) |
走査角 | ±45°(地表面距離1600km) |
S/N, NE△T | 800、0.1K(1.25mrad IFOV bands) |
量子化ビット数 | 12bit |
MTF | 0.35 |
変更感度 | 2%程度 |
チルト角 | -20°、0°、+20° |
粗画像データ抽出 | 4バンド(443nm、565nm、667nm、11.95mm) |
Sea Winds 海上風観測装置
風速測定精度 | 2m/s(RMS): 3 – 20m/s 10% : 20 – 30m |
風向測定精度 | 20°(RMS)3 – 30m/s |
空間分解能 | 25km |
位置推定精度 | 15km(RMS) |
観測範囲 | 2日間で海洋の90% |
送信周波数 | 13.402GHz |
送信電力 | 120W |
POLDER 地表反射光観測装置
観測波長帯 | 0.443 – 0.91mm |
測定絶対精度 | 2%λ ≦ 565nm |
量子化精度 | 3%λ ≦ 665nm |
伝送速度 | 12bit 882kbps |
質量 | 33kg |
消費電力 | 42W |
サイズ(mm) | 800×500×250 |
ILAS-II 改良型大気周縁赤外分光計II型
観測スペクトル範囲 | CH:1:6.21 – 11.76mm(1610 – 850cm – 1) CH:2:3.0 – 5.7mm(3333 – 1754cm – 1) CH:3:12.78 – 12.85mm(782.4 – 778cm – 1) CH:4:753 – 784mm |
測定高度 | 10 – 60km(雲頂高度から250kmまでを連続測定) |
高度分解能 | 1km |
濃度鉛直分布精度 |
オゾンについては1% ClONO2微量成分は5%とし、ClONO2については検討中 |
測定領域 | 北半球:57 – 73°/南半球:64 – 90° |
分光方式 | CH:1:平面回折格子分光器 CH:2:平面回折格子分光器 CH:3:平面回折格子分光器 CH:4:凹面回折格子分光器 |
観測対象 | O3、HNO3、NO2、N2O、CH4、H2O、CIONO2、NO2、エアロゾル、気温、気圧、CO2(圧力測定用) |
関連情報
地球を見守る人工衛星
陸地、海洋、大気の状態を観測するための地球観測衛星です。災害や気候変動に対応するために、宇宙から私たちの地球を見守っています。
暮らしを支える人工衛星
通信を行ったり、測位(自分の位置を知る)を行ったりするための人工衛星です。新しい技術開発をするための人工衛星も作っています。
衛星プロジェクト ストーリー
人工衛星への熱き想い!
人工衛星は機械ですが、人工衛星を研究開発して運用するために、JAXAの宇宙開発の現場ではプロジェクトチームとして多くの人が協力して働いています。ここでは衛星プロジェクトを支えるストーリーを紹介します。ミッション遂行に向けた熱い想い、大変な話、感動する話、面白エピソード、普段聞けない裏話などなど。
ってだれが運営しているの?
サテライトナビゲーター(サテナビ)は、暮らしを支える人工衛星の開発・運用をしているJAXA第一宇宙技術部門が運営しています。JAXA第一宇宙技術部門の詳細についてはこちらへ。
JAXA 第一宇宙技術部門について