2021.12.02(木)

くっきー!、地球観測衛星を学ぶ!?

スペシャルレポート

くっきー!さん

【WEBサイトリニューアル記念】スペシャルレポート

野性爆弾くっきー!&タケト × JAXA 第一宇宙技術部門 【第1部】

マルチな才能を爆発させて飛ぶ鳥を落とす活躍を見せる、お笑い芸人・野性爆弾くっきー!さんが、盟友のお笑い芸人・タケトさんとともに、JAXA筑波宇宙センターに登場!!
見学施設のスペースドーム内で、第一宇宙技術部門の職員たちがお2人に人工衛星のはたらきについて紹介しました。

(取材日:2021年10月6日)

くっきー!さん
1976年3月12日、滋賀県生まれ。吉本興業所属。1994年、NSCに入門。同年、幼なじみのロッシーさんとお笑いコンビ「野性爆弾」を結成。お笑いだけでなく、アーティスト、ミュージシャンと多彩な顔を持ち、幅広く活躍。唯一無二の存在感を醸し出しています。

タケトさん
1976年3月2日、千葉県生まれ。吉本興業所属。1996年、大学時代の同級生とお笑いコンビ「Bコース」を結成。2012年、コンビ解散後はピン芸人として活動しながら、保育士など数々の育児関連資格を取得。育児に関する講演も多数行っています。

1. 第一宇宙技術部門は、人工衛星から地球を見つめる仕事

●案内する人:占部 智之(衛星利用運用センター 主任研究開発員)

スペースドームに足を踏み入れた瞬間から大興奮のくっきー!さんとタケトさん。ロケットや国際宇宙ステーションの模型を前に「カッコええ!」「すげー!」を連発。
でも、ちょっと待って! 今日お伝えしたいことはほかにあるんです。

衛星利用運用センターで地球観測衛星の将来ミッションの検討を担当している占部智之が第一宇宙技術部門の仕事を紹介します。

JAXAは宇宙航空研究開発機構という組織なのですが、何をやっているイメージを持たれていますか?

やっぱりロケットを打ち上げてるイメージですね。

人を宇宙に送り込んだりね。

それも大事なミッションなのですが、今日お2人をお呼びしたJAXAの第一宇宙技術部門は人工衛星の仕事をしている部門なんです。人工衛星を地球のまわりに飛ばして、人々の生活に役立たせるための開発や研究を行っています。

人工衛星って何の役に立ってるんですか?

大まかに「測位」「通信」「地球観測」の3つの役割に分けられます。「測位」というのは、カーナビなどで自分がどこにいるのかを知るなど位置情報に役立っています。

ということは、普段ボクらは宇宙と交信しながらクルマを運転してるってことですか? めちゃくちゃ身近ですね。

そうなんです。「通信」は、山間部や離島などの通信インフラ(基盤となる施設や設備)の整備されていないところで通信や中継を可能にしています。また、災害などで地上の通信インフラが使えなくなったときでも、衛星を通して通信を行えます。

ほぉ〜、なるほど。

そして、「地球観測」。今日はこれをいちばんアピールしたいのですが、宇宙から地球を見守る役割です。たとえば、どんなものを観測していると思われますか?

アメリカバイソンの群れとか? アメリカバイソンの群れが都市部に突っ込んできたら困るやろ。そういうのは前もって知りたいな。

(笑)それもあるんですけれども・・・

えっ! あるの?

たとえば、クジラに発信器を付けて、その電波を人工衛星が拾ってクジラの位置を追跡することを目的とした民間衛星も過去にはありました。

じゃあ、アメリカバイソンもあながち間違いじゃないんだ。

一同:(笑)

宇宙から地球を観測する人工衛星を「地球観測衛星」と呼びますが、地球観測は大きく分けて「陸」「海」「空」を見ています。たとえば、「陸」。「だいち」(ALOS)という地球観測衛星は普段は地球の精密な地図をつくる役割を担っているのですが、災害時には緊急観測といって被災地のビフォーアフターの写真を撮り、それを提供して役立ててもらう仕事をしています。東日本大震災のときは津波がどこまで陸地に入ってきたかを観測しました。

それによって津波のパワーがわかるんや。ここまで来るから気をつけてくださいって。

それをもとに対策を考えるんですね。

次に「海」。たとえば、「しずく」(GCOM-W)「しきさい」(GCOM-C)といった地球観測衛星からは、地球温暖化によって北極や南極の氷が小さくなっているということなどを観測しています。あと海面水温もわかります。

すごい、温度までわかるんや。

暖流と寒流がぶつかるところはプランクトンがいっぱい発生するので、海流の流れと衛星からの海面水温を組み合わせると、漁場もわかってきます。
あと「空」ですが、たとえば「いぶき」(GOSAT)という地球観測衛星は温暖化の原因とされる二酸化炭素やメタンの濃度を観測しています。
本日はこれらの「地球観測衛星」についてお2人に知っていただきたいと思っています。

ボクらの生活に密着してるってことですよね。これは知っておきたい。

よし、今日は地球観測衛星を知ろう!

2. 地球観測衛星は最先端の技術が結集した、未来のねぶた!?

●案内する人:重藤 真由美(GOSAT-2プロジェクト 研究開発員)

地球観測衛星の試験モデルの展示スペースへと歩みを進めるお2人。ここからの案内役は、地球観測衛星の開発を担当している重藤真由美です。興味深そうに人工衛星を見つめるお2人がまず気になったのは・・・

ここに展示しているのは地球観測衛星を宇宙に打ち上げる際に地上で行う試験などに使われたモデルです。実際に宇宙に打ち上げられたものとほぼ同じもので、模型ではなく本物なんですよ。

未来のねぶたみたい。気になるのが、ボディに銀紙みたいなのを貼ってるじゃないですか? あれは何?

あれは断熱材です。宇宙って過酷な環境で、太陽のあるところは100℃以上になりますし、太陽のないところはマイナス100℃になります。地球観測衛星の内部には大切な機械が入っているので、熱から守るために断熱しないといけないんです。

すごい気温差があるんだ。

断熱材なんや。オレたちがキャンプで使うようなものと変わらないのかな?

あまり変わらないと思います。こちらJAXAのショップでも売ってます。しかも、マジックテープで地球観測衛星に留めているんですよ。

えっ、ショップで売ってはりますの? しかもマジックテープって。剥がれちゃうでしょ?

驚かれる方も多いんですけど、基本的には剥がれないです。地球をまわる地球観測衛星は宇宙を秒速約8km(90分で地球を一周する速さ)というもの凄い速さで飛んでいますが、宇宙では空気がなく抵抗がないので剥がれないんです。デブリという宇宙ごみがぶつかると剥がれてしまうこともあるんですけど・・・。

続いて、展示されている「だいち」を見ながら、地球観測衛星の搭載パーツについて説明。地球観測衛星のレーダや太陽電池パドルは折りたたまれてロケットに格納されていることを聞くと、「ガンダムみたいや」(くっきー!)「JAXAはガンダム好きが多いんです!」(重藤)などと盛り上がる3人。

太陽電池パドルって、ソーラーパネルみたいなやつですよね? 宇宙でも使うんですね。

宇宙で電力をどこから供給するかというと、太陽なんです。太陽の光を太陽電池パドルで受けて電力に換えています。地球観測衛星は地球を周っていますが、ずっと太陽の光を受け続けることは出来ないため、位置的に衛星から太陽が見えないときは太陽電池で充電したバッテリーを回しています。

じゃあ、バッテリーが壊れちゃったらツライですね。予備も積んでるの?

バッテリーに限らず、大体のパーツはひとつ壊れても機能するように予備を積んでいます。何かあっても宇宙までは修理に行けませんので。最近の地球観測衛星は太陽電池パドルも両脇に2つ付いているものが多いのですが、「だいち」は片側1つだけなんです。

「だいち」は「だいち」衛星シリーズの初号機で長男やからね。長男はでっかくて、大胆なのよ(笑)。

陸域観測技術衛星「だいち」(ALOS)

どうしたらリスクを減らせるかを考えて、少しずつ人工衛星のカタチが変わってきています。衛星に機能が多くあると、衛星に万が一のことがあった場合に全ての機能が損失となってしまいます。「だいち」はカメラとレーダの両方を載せていたから大きいんですけど、リスクを回避するために、最近はひとつの人工衛星にはひとつの機能を載せようという思想になってきていて、今はあまり大きな人工衛星はありません。「だいち」は4トン級ですが、現在はその半分以下が標準ですね。

感心しきりのお2人に、今度は地球観測衛星に使われている素材について説明します。

地球観測衛星は、重量をできるだけ軽くするために素材を工夫しています。人工衛星構造部の素材の断面はハニカム構造といって、断面を見ると蜂の巣状になっています。これは軽くて丈夫なんです。地球観測衛星は過酷な環境下で使われるので、丈夫でなければいけないのですが、重いとロケットに載せる際にロケットの燃料がたくさん必要になるため、軽くないといけません。また、衛星の目的によっては衛星自体を動かす必要があるので、軽いほうがいいんです。例えば災害観測の役割がある衛星は、災害発生時に発生場所の方向を向いて観測する必要があります。

無重力だったら、重さは関係ないんじゃないですか?

確かに無重力なので、衛星が地球を周回するのに重さは関係ないのですが、衛星自体の姿勢を動かすときには姿勢制御のための装置やガスジェットを使って荷重*をかける必要があるので、軽い方が使用する装置に求められる性能や推薬(燃料)が少なくて済みます。
*荷重・・・物体に加えられる力。

なるほど、そうなんや。

過酷な環境に耐えながら役割をまっとうするために、地球観測衛星にはいろいろな技術が詰まっていますし、いろいろな分野の技術者など関係者が協力しながら携わっています。

それも超最先端のね。面白い。

だんだん地球観測衛星のことがわかってきましたね。

こちらのパートの最後には、地球観測衛星の開発中に行われるさまざまな試験の様子や、地球観測衛星がどのように地球のまわりを飛んで、どのように観測しているかがわかるビデオを見ていただきました。

と、ここで、重藤がかねてから疑問に思っていたことをくっきー!さんに質問です。

くっきーさん、ネタの終わりによく「宇宙、宇宙、宇宙」と言われますけど、あれはどういう意図があるんですか?

それはオレも知りたいな。

やっぱり地球におる人間として宇宙に対する憧れってでかいじゃないですか。「宇宙」って言い続けることによって、宇宙といつか交信できるんじゃないか、宇宙に近い存在になれるんじゃないかなと。

(笑)なるほど・・・。

ほな、実際にこうしてJAXAさんに呼ばれて。まさにつながっちゃったかな。

一同:(爆笑)

3. 宇宙から俯瞰すれば、地球のSOSも見えてくる。

●案内する人:棚田 和玖(地球観測研究センター 研究開発員)

続いては、モニターを使って地球観測衛星が撮影したさまざまな画像を見ながら、衛星データについて紹介します。案内するのは、衛星データの解析研究や地上データ処理システムの開発・運用を行っている棚田和玖です。

わたしは主に「しきさい」という地球観測衛星が撮った画像の解析を担当しています。まずはこちらの写真をご覧ください。

これはサザエのふたですか?

こちらはアフリカ北西部のモーリタニアという国の中央部にある円環状の構造体の画像です。

えっ! ほんまにこういうところがあるってこと?

Maps Data: Google, Image: Landsat / Copernicus

はい。砂漠のど真ん中にこういう地形の場所があるんです。実際はちょっと窪んでいる場所で、風とか侵食とか隆起によって、だんだんまんまるい形になった不思議な地形で、直径が50kmくらいあります。

でかっ!

なので、宇宙から見て初めてその全容を知ることができます。「目」のように見えるので、「サハラの目」と呼ばれています。このように、まだまだ人類が知らないような光景も、衛星からなら発見することができるんです。

「しきさい」が撮った世界各地のさまざまな衛星画像を見ながら、「わっ、脳みその血管みたいだ」などと独特な感想を語るお2人。普段なかなか目にしない画像なので、びっくりしたり、不思議に感じたり・・・

ところで、これらの画像って写真なんですよね? 色も実際の色なんですか?

青、緑、赤色の波長を合成することで人間の目で見える色に寄せています。他にも人間の目には見えないような波長の光も観測することができます。

ズームはどのレベルまで寄れますの?

空間分解能という言い方をするのですが、「しきさい」の場合、1ピクセルあたりの大きさが250m×250mという解像度で見ることができます。地球規模の環境変動を詳細にモニタリングするのに適している衛星です。

さすがに人とかクルマは見えない?

「しきさい」では難しいですが、「だいち2号」では数m、次期打ち上げ予定の「だいち3号」では1mを切る分解能を持っていますので大きめの車であれば存在は認識できるのではないかと思います。

ところで、こちらのポストカードみたいな画像はなんですか?

こちらは、とある物理量の時間変化を示している動画なのですが、なんだかわかりますか?

う〜ん・・・イナゴの突進ですか?(笑)

いやいや、そんなわけはない(笑)! これまで勉強してきたから、ボクはわかりますよ。二酸化炭素とメタンの量でしょ。

違います(笑)。これは海面水温を示しています。赤いところほど海面温度が高いことになります。なので、赤道近くは赤くて、北極や南極は青い。季節の移り変わりで、夏になると赤い帯が少し北上しています。こういった情報も衛星からモニタリングすることができます。

なるほど。

基本的に海の温度は地球環境と密接に結びついていまして。「エルニーニョ現象」という言葉を聞いたことがあると思うのですが、太平洋の東側の赤道沿いの海水温が平年よりも高くなると、台風の増加や異常気象等に結びつきやすいとされています。

じゃあ、もっと全体が青くなったほうがいい?

そうともいえないんですよね。寒くなり過ぎても、大気の循環に悪影響を与えたり、作物や海洋生物にとって悪条件になることもある・・・。ほどほどがいちばんですね。

今はほどほど?

いえ、ここ数十年で海面水温は徐々に上がってきていて、南極や北極の氷がどんどん溶けているというのもそういったことに起因しているとされています。
日本の海にも影響が出ていて、特にサンゴ礁ですね。二酸化炭素が増えるとそれを海が吸収して酸性化してしまい、それに加えて海水温が高くなると、サンゴが棲めるエリアがどんどん狭くなってしまうんですね。それが続くと、いずれ絶滅しかねない。

やっぱりちゃんと考えないといかんな。地球規模のことだと他人事に思いがちだけど、地球のことって自分のことだから。

最後に、わたしの研究テーマでもあるのですが、地球温暖化に伴う森林火災の衛星観測事例を紹介させてください。

見ましょう。

2019年にオーストラリアで大規模な森林火災が起きまして、南部にあるカンガルー島という島も大きな被害を受けました。上が火災前で、下が火災後の画像なんですけど、違いはわかりますか?

左側の緑がなくなってる?

そうです。ここは全部森林だったんですが、ほとんどなくなってしまって。多くの生物が犠牲になってしまいました。地上からだと、どれくらいの規模で燃えていて、どれくらいの被害が出ているのかがわかりづらいのですが、衛星からだとそれがわかります。
さらにこの画像を加工して植物を明るい色で表示した図がこちらなのですが、火災によって島の1/3くらいが燃えてしまったことが一目瞭然です。

衛星からのモニタリングを活用して、これを防ぐことはできないのですか?

完全に防ぐことは難しいですが、風向きのデータなどと組み合わせれば、先回りしてこれから燃え広がると思われるエリアの木をいったん全部伐採して、それ以上燃えないようにすることはできると思います。
あとは火災検知ですね。大規模な火災になる前に、火災が小さいうちにいち早く見つけて情報提供し、消火する。

森林火災とか山火事はなんで起こるの?

自然現象で起こるケースと人為的な原因で起こるケースがあります。自然現象の場合はカミナリとか、空気が乾燥していると葉っぱ同士の摩擦でも火が出てしまうことがあります。

昔、そば屋に置いていた天かすから勝手に火が出たっていうニュースがあったよね。

今度はアメリカ西海岸全域で2020年9月に起きた火災の画像なんですけど。

天かすが原因?(笑)

いえいえ。直接的な発火原因はカミナリとされています。ただ、右の図は地表面温度を示していまして、デス・バレーなどは60℃を超えているんですよね。

なるほど。そもそも暑いんや。

地球温暖化によって熱波(著しく高温な空気が、ある地域を覆う現象)などの異常気象が増えると、間接的に火災が起きやすい条件が整いやすくなります。なので、今後こうした大規模火災は世界各地で増えていくといわれています。

温暖化になればなるほど、火災が起きやすくなるんや。

火災が起きると森林が減少するだけでなく、たくさんの二酸化炭素が出る、それでまた温暖化が進んでしまう。

悪循環だ。

モノは燃やさんほうがええなな。気持ちだけや燃やすのは!

一同:(笑)

だから、ごみも減らしたほうがいいってことですよね。ごみも燃やすんだから。

すべて生活につながってくるねんな。気をつけないといかん。

今日のお話を聞いて危機感を感じましたよ。高いところを見下ろす「俯瞰」で見るって大事ですね。

人間一人の目では見える範囲が非常に限られますから。宇宙から俯瞰して見ると、地球のSOSを感知できるということですね。

なるほど!

第2部に続く!

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