森林・非森林マップ(FNF)で見る森林の変化
「2024年 衛星画像を使った自由研究の募集」で、優秀賞を受賞された元 太陽(もと たいよう)さんに、お話をお聞きしました。インタビュアーはJAXAで「だいち」シリーズ衛星のデータを中心に、長年研究を行っている田殿 武雄 研究領域主幹です。
元さんの自由研究のタイトルは「中国・四国地方における森林・非森林マップ(FNF)を活用した県ごとの森林の増減とその分析」です。森林の衛星データを用いて、中国・四国地方の森林の変化を分析されています。
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インタビューを行った日 2024年12月10日
参加者:
元 太陽さん 広島県修道高校3年生
田殿 武雄 第一宇宙技術部門 地球観測研究センター 研究領域主幹
「だいち」(ALOS)シリーズ衛星のデータの品質評価(校正検証)や衛星データが人々の生活や社会課題の解決にどのように活用できるか(応用利用研究)を日々検討中。
https://www.eorc.jaxa.jp/ALOS/jp/index_j.htm
岡 綾乃 第一宇宙技術部門 衛星利用運用センター 研究開発員(進行役)
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自由研究に取り組んだきっかけ
岡:まず初めにどのようなきっかけで、今回自由研究に応募いただいたのでしょうか。
元:私は小学生の頃から宇宙が好きで、JAXAの出張講演などにも参加していました。高校1年生の時に文系を選択したのですが、どうしたら宇宙好きを実生活に活かせるかを考えている中で、衛星データが日常生活に活かせると気付き興味を持っていました。自由研究の募集を知り、衛星データにはどのようなものがあるのかJAXAのHPを調べていた所、森林・非森林マップ(FNF)(※1)のデータを使えば、自分ならではの解析ができるのではと思い、取り組んでみました。
岡:元さんが通っておられる修道高校では、修学旅行でJAXAにいらっしゃっていると伺いましたが、元さんもいらっしゃったのでしょうか?
元:はい、JAXAの相模原キャンパスか筑波宇宙センターの二択でしたが、私は筑波宇宙センターに行きました。
施設見学とデータワークショップがあり、データワークショップでは、EOブラウザ(※2)を用いて、森林火災によってどの辺りが消失したか、その後の復興具合を地図で重ね合わせて確認する方法などを学びました。
岡:その時に初めて衛星データに触れられたということでしょうか?
元:はい、その時が初めてです。
衛星データの解析について
岡:今回は解析ソフトとしてQGIS(※3)を活用して衛星データの解析をしていただきましたが、どのようにQGISの使い方を学ばれたのでしょうか?
元:初めは森林・非森林マップ(FNF)をどのように使えばいいのか分からなかったのですが、JAXAのHPにQGISの操作方法が載っていたので、それを元に他の情報も使って一から使い方を学びました。
岡:独学で習得されたということですね。結構大変ではなかったですか?時間もかかったのでは?
元:初めてだったので、画像を読み込むところから始まり、白地図にあてはめて県ごとの森林量を出してみたりと、試行錯誤しながら1週間くらいかかりました。
岡:やってみていかがでしたか?
元:楽しかったです。どうやったらこのデータを活かせるのだろうかとか、何と組み合わせたらもっと良くなるのだろうかなどと考えていると、夜寝るのが遅くなってしまうくらいでした。中国・四国地方で2017年から2020年にかけて森林は減っていると予想していたのですが、意外と増えていることが分かりました。そこで、林業に携わっている方の人口データと組み合わせて何が原因なのかを探っていきました。
田殿:作業をしている時に困ったことはありませんでしたか?
元:画像データから森林の面積を出す方法を考えるのに時間がかかりました。
実際には画像の色ごとのドットの数をカウントして、森林の割合を出しました。
田殿:その方法で合っていますよ。ちなみに森林・非森林マップ(FNF)は1ドット25m四方で作られています。
元:森林データを公開するための処理はどれくらい時間がかかりますか?
田殿:森林・非森林マップ(FNF)の全球モザイク画像(小さなシーン単位の観測画像をつなぎ合わせて、1枚の画像にしたもの)は年毎に作っていますが、これは大体1か月半くらいかけて処理をしています。
「教師付き分類」という方法を使っているので、この場所は森林だ、ここは非森林だとサンプルを作る作業があり、これに数週間かかっています。その後、自動的に分類処理が実行されます。
この元となるのが「だいち」や「だいち2号」の観測データです。
解像度10m、観測幅50kmのデータを使うので、50km四方の画像をつなぎ合わせて、世界中の陸域をカバーするような観測をすることが重要です。 いつどの場所を観測するのが最適なのか議論しながら基本観測シナリオというものを作って、それに沿って運用しています。
元:白くデータが無いように見える所は、観測ができなかった場所ということでしょうか?
田殿:そうです。全球の観測ができるように計画を立てていますが、「だいち」シリーズ衛星は、災害が起きた場所を優先して観測しているため、計画通りに観測できないこともあり、観測できていない部分は白く抜けてしまいます。
田殿:現在、森林・非森林マップ(FNF)の全球モザイク画像の2024年度版を作っていますが、衛星データの分類方法を見直しており、より高精度にしようとしています。さらに過去のデータも含めた処理により、より良いデータを提供していきたいと考えています。
宇宙に関わっていくには
岡:その他に、元さんから聞いてみたいことはありますか?
元:JAXAの方々は宇宙が好きでJAXA職員となっている方が多い感じがしますが、実際のところはいかがでしょうか?
田殿:私は、中学生の時にアポロ13という本を読んで漠然と宇宙に興味を持っていましたが、実際に面白そうだと思ったのは大学の卒業論文や、大学院の修士論文の際に、衛星データの解析を行ういわゆるリモートセンシングを学んだことがきっかけです。宇宙好きというよりは、地球好きでしょうか。
JAXAには理系だけでなく、文系の方も含め色々なバックグラウンドの人が集まっています。
田殿:大学ではどのようなことを勉強したいと思っていますか?
元:大学では法律を専攻したいと思っています。その一環で宇宙に関する法律も学んでみたいですし、サークル活動でロケットを打ち上げたり、衛星画像を使ったアプリなども作成してみたいと思っています。
元さんの自由研究は、森林・非森林マップ(FNF)を用いて、中国・四国地方の9県における2017年と2020年の森林変化を考察されています。森林面積だけでなく樹冠率の指標も用いることで、一見森林が増加しているように見える結果に対して、林業従事者の減少という要因に着目して問題点を考察されている点が独創的で素晴らしかったです。森林・非森林マップ(FNF)では世界中の森林の状態を見ることができます。皆さんも、身近な森林の変化や、アマゾンの熱帯林の減少など、身近な問題から地球規模の環境問題まで、様々な角度から森林について考えてみましょう。
熱帯林の減少
※1:森林・非森林マップ(FNF)
衛星が観測したデータを活用して、世界の森林の分布を見ることができるサイトです。
操作ガイド
※2:EOブラウザ
欧州宇宙機関(ESA)が提供している衛星画像を閲覧できる無料のオンラインツールです。
(参考)EOブラウザ 操作ガイド
2025.02.13 文:松﨑