16年活躍する「いぶき」について16歳が聞いた

「2024年 衛星画像を使った自由研究の募集」で、優秀賞を受賞された佐藤 仁律(さとう ひとのり)さんに、お話をお聞きしました。インタビュアーはJAXAで長年、GOSATシリーズ(温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)と温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT-2))の開発に携わり、「GOSATは私の一生の仕事」と語る「いぶき2号」のプロジェクトマネージャも務めた久世 暁彦 シニアアドバイザーです。

佐藤さんの自由研究のタイトルは「近年の地球での変化を調べてみた」です。「いぶき」のデータを活用し、湖の面積変化と降水量やダムの関係性ついて考察されています。

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インタビューを行った日 2024年12月26日

参加者:
佐藤 仁律さん 江戸川学園取手高校 高校1年生
久世 暁彦 第一宇宙技術部門 衛星利用運用センター シニアアドバイザー
 地球上の様々な場所の二酸化炭素やメタンの濃度を宇宙から毎日10年以上観測し、そのデータを世界の皆さんに届けています。https://www.satnavi.jaxa.jp/ja/story/1358/index.html
岡 綾乃 第一宇宙技術部門 衛星利用運用センター 研究開発員(進行役)

佐藤さんが作った小型月着陸実証機(SLIM)の模型を持って、佐藤さん(左)、久世(右)

図鑑を見てワクワク

岡:今回、衛星画像を使った自由研究にご応募いただきましたが、佐藤さんは元々宇宙や人工衛星などに興味があったのでしょうか?
佐藤:はい、宇宙は小さい頃から図鑑などを見て興味を持っていました。特に、天文に関することが好きです。
岡:私も小さい頃から宇宙の図鑑を見て、ワクワクしていたことを覚えています。いつか自分でも何か新しいことを発見できるのではないかと思い、大学では天文学を専攻しました。JAXAでは宇宙から地球へ視点を移し、地球観測衛星の仕事に携わっていますが、地球上でもまだ分かっていないことがたくさんあることを日々実感しています。佐藤さんも自由研究を通して、誰も注目していない場所に注目して発見する喜びがあったのではないでしょうか?
佐藤:はい。今回の自由研究をきっかけに初めて衛星画像を見てみましたが、自分が気になったところを調べて、データを整理していくことは楽しかったです。

「いぶき」の画像について

図1 (左)TANSO-CAI ブラウズ画像で公開されている画像データ
(右)佐藤さんが注目されたイラクにあるカーディシーヤ湖とその周辺

久世:今回の自由研究でGOSATデータを利用しようと思ったきっかけは何でしたか?
佐藤:JAXAのHPで色々な衛星画像があるのを見た中で、一番関心があったのがGOSATデータでした。
久世:嬉しいです。使ってもらったのはTANSO-CAI ブラウズ画像(※1)で公開している画像(図1)ですね。地球全体の画像で曇がかかっている日も多いので、同じ地点の変化について見つけることは大変ではなかったですか?
佐藤:毎年の画像を切り替えながら色々な地点を見ていたのですが、自由研究で触れたイラクのカーディシーヤ湖は、湖が大きくなったり、小さくなったりする変化が見られたので興味深いと思いました。
久世:数ある地球上の地点からその変化を見つけられたのはすごいですね。

岡:自由研究では湖の面積の変化をグラフ化されていましたよね。湖の面積はどのように数値化されたのですか?
佐藤:画像中の湖の部分を、色の違いで判別し、ピクセル数を数えました。
久世:「いぶき」が観測した画像データは全て数値化されているので、衛星の画像を使って研究している人はそういった数値化されたデータを使って分析しています。

他の衛星画像で見ると

図2 イラクのカーディシーヤ湖(Sentinel-2による観測画像)
観測日 (左) 2017年7月16日, (右) 2024年7月19日

岡:佐藤さんが着目されたイラクのカーディシーヤ湖を、高分解能の光学衛星であるSentinel-2(※2)で見ると図2のように見えます。2017年と2024年の画像を比較すると何か気づく点はないですか。
佐藤:円形農場がたくさん広がっていますね。
岡:そうなのです。自由研究の考察にも、「人がこの地球が大きく変化させる力があることも感じて、人には多くの責任があることも分かった」と記載されていましたね。
久世:佐藤さんが今回の自由研究のように、世界中の広範囲から変化を見つけ出す作業は、「いぶき」のような広い観測幅(観測幅1000km, 分解能500m)の衛星が向いているので、非常に良い選択だったと思います。衛星には「いぶき」のように広範囲を一度に観測できるものから、Sentinel-2のように高分解能で狭い範囲を観測できるもの(観測幅290km, 分解能10m~)など、様々な種類があります。広域観測で興味のある場所を絞り込んだ後、高解像度な画像で詳細な分析を行うことで、異なった見方・新たな発見につながることは面白いですよね。

16年間活躍する「いぶき」の凄さ

続いて、筑波宇宙センターの臨時展示室で、「いぶき」に搭載されているセンサの心臓部等を見学していただきました。

図3(左)展示室で「いぶき」のセンサの心臓部(TANSO-FTS)を見ながら説明を受ける様子
(右)展示されている「いぶき」が観測した「季節変化を繰り返しながら上昇する地球大気中の二酸化炭素濃度 (南北断面)」

久世:佐藤さんが自由研究で利用されたTANSO-CAI ブラウズ画像は「いぶき」に搭載されている「雲・エアロソルセンサ(TANSO-CAI)」で観測した画像です。TANSO-CAIは赤色など4色のセンサなので、人が見た色に近い画像で表示されますが、「いぶき」のメインセンサである「温室効果ガス観測センサ(TANSO-FTS)」は人の目には見えない赤外光の1万色の色を観測することができます。それらを分析することで、目に見えない二酸化炭素やメタンの量を見ることができます。

図3(右)の「地球大気中の二酸化炭素濃度(南北断面)」のグラフは、「いぶき」が観測してきた二酸化炭素の濃度をグラフ化したものです。このグラフを見て分かるように、10年間で二酸化炭素濃度の増加が加速しています。
地球の変化は毎日見ているだけは変化が分かりづらいですが、10年、15年と長期間見ることで変化していることが分かります。その為には、同じ精度で長期間観測できるように、長生きする人工衛星を作らなければならないのです。「いぶき」は2009年1月に打ち上がっており、16年間活躍している人工衛星です。
佐藤:私も2008年生まれですが、同じ16歳です。
久世:おぉ、「いぶき」と同じ学年ですね!

久世:人工衛星は宇宙にあるため、壊れたら修理するということができません。その為、壊れないようにすごく頑丈に作っています。 また、普段使っているパソコンなどのケーブルはそれほど太くないと思いますが、人工衛星の中にあるケーブルはとても太いですよね。電磁干渉があると、観測データにノイズとして影響を与えてしまうので、電磁干渉しないように金網で覆ったシールド線を使っています。コネクタの部分も絶対に外れないようにしています。

さらに、宇宙空間は太陽の光が当たるか、当たらないかで温度差が激しいのですが、人工衛星の心臓部は0.1℃か0.2℃くらいしか変わらないように、「サーマルブランケット」という熱を遮断する金色の素材で衛星を包み、中に入っているヒーターをオン・オフすることなどで調整しています。 現物を見てもらうと分かると思いますが、衛星の中はケーブルやヒーターばかりですよね。

佐藤:センサの外側に張り巡らされている銀色のものは何ですか。
久世:ハニカム構造といって六角形を敷き詰めた構造でハチの巣状になっています。薄いアルミニウムでできているので高強度なのに軽量なのです。

佐藤:衛星のセンサの中も見ることができて、とても興味深かったです。

久世:「いぶき」は毎日広く地球全体を観測しているので、長期的に地球全体を見ることには優れているのですが、1地点の詳細な観測には他の衛星データを活用していただくことも有効です。 JAXAを含め、アメリカのNASAやヨーロッパのESA等でも観測データを無料で公開しているので、積極的に使って、今後、何か発見したら発表してもらえると嬉しいです。

佐藤さんの自由研究は、「いぶき」の長期観測データを活用し、湖の面積変化と降水量の関係から地球環境の変化を分析されており、非常に興味深い内容になっています。 「いぶき」(GOSAT)は、JAXAの衛星としては最長の15年以上の観測を行っており、その後継機である「いぶき2号」(GOSAT-2)と共に温室効果ガスの観測を主に行っています。

関連情報:
温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)
温室効果ガス観測技術衛星2号「いぶき2号」(GOSAT-2)

※1:TANSO-CAI ブラウズ画像
佐藤さんが自由研究で利用された「いぶき」の「TANSO-CAI」で観測された画像です。

※2:Sentinel-2
ヨーロッパの地球観測衛星です。ESAが提供しているEOブラウザでデータを閲覧することができます。
EOブラウザの操作方法はこちら

2025.02.13  文:松﨑

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