「だいち4号」の凄さを教えてあげたい!
「2024年 衛星画像を使った自由研究の募集」で、特別賞を受賞された廣末さんとJAXAの先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)のプロジェクトメンバーとの対談の様子をご紹介いたします。対談者は、勘角 幸弘 プロジェクトマネージャ、本岡 毅 ファンクションマネージャ、伊藤 奎政 研究開発員です。
廣末さんの自由研究のタイトルは「今日も働く人工衛星 ALOS-4(だいち4号)の活躍」です。「だいち」シリーズ衛星についてのまとめと2024年1月の能登半島地震の被害状況について地理院地図を活用して解説されています。
廣末さんの作品はこちら
優秀作品一覧はこちら
インタビューを行った日 2024年12月25日
参加者:
廣末さん 小学校5年生
勘角 幸弘 第一宇宙技術部門 先進レーダ衛星プロジェクトチーム プロジェクトマネージャ
「だいち2号」、「だいち4号」のミッション開発担当を経て、現在は「だいち4号」に関わる全ての取りまとめを担当し、毎日「だいち4号」を見守っています。
本岡 毅 第一宇宙技術部門 先進レーダ衛星プロジェクトチーム ファンクションマネージャ
「だいち4号」に搭載されているLバンドSARの開発を担当しました。観測したデータの解析方法も研究しています。
伊藤 奎政 第一宇宙技術部門 先進レーダ衛星プロジェクトチーム 研究開発員
「だいち4号」のデータを皆さんに広く使っていただけるよう、画像の検証をしたり、画像を使った研究をしています。
「だいち4号」パブリックビューイング
勘角:自由研究に応募いただいたきっかけは、2024年6月30日の「だいち4号打上げ応援パブリックビューイング」とのことでしたが、以前から人工衛星に興味があったのですか?
廣末:宇宙兄弟を読んでロケット開発や宇宙探査に興味を持ちました。パブリックビューイングで、地球を見守る人工衛星のことを知り、特に「だいち4号」が凄いと思いました。そして「だいち4号」や「だいち2号」が地球を守っているのをみんなは知らないから、「みんなに教えてあげたい!」と思い自由研究でまとめました。
勘角:「だいち4号」のどんなところが凄いと感じてくれましたか?
廣末:LバンドSAR(Lバンド合成開口レーダ)!畳まれていて、開くのが凄いと思いました。
勘角:LバンドSARという言葉を知っているだけでも凄いですね。小学校5年生でこの言葉を知っている人はなかなかいないと思いますよ。
廣末:パブリックビューイングで三菱電機の方が、SARがどのように開くかを両手で分かりやすく教えてくれて、家に帰ってからもしばらく家族みんなでSARの展開のジェスチャーをやっていたんです。
あと、SARでは地形の変化が細かく分かるのだと知ってびっくりしました。
勘角:他にびっくりしたところはありますか?
廣末:観測幅が広いこと!
勘角:「だいち4号」は200kmという広い観測幅で、細かく観測ができるというのが大きな特徴です。200kmは九州がほぼ入ってしまうくらいの幅なのです。
「だいち4号」を作ってきました!

勘角:好きなことや将来の夢はありますか?
廣末:ロボットが好きで高専ロボコンは毎年見に行っています。将来は宇宙で活躍するロボットや衛星を作りたいと思っています。「だいち4号」を作ったので見てください!
勘角:凄い!完璧じゃないですか!LバンドSARアンテナも、ちょうどいいサイズ感ですね!アンテナの大きさはどれくらいあると思いますか?
廣末:10m!
勘角:正解!10m×3.6mの長方形です。大きいですよね。
廣末:薄いけれど、ここから電波を出せるのですか?
勘角:LバンドSARのアンテナには「だいち2号」では180個、「だいち4号」では232個の小さい送信機が取り付けられていて、それぞれから電波を出して合成しています。
廣末:「だいち4号」は何キロありますか?
勘角:約3000キロ(3トン)です。
廣末:LバンドSARだけでは何キロあるのですか?
勘角:LバンドSARのアンテナだけで600キロあり、衛星の下にある三角の部分には観測するための機器が入っているのですが、こちらの機器を合わせて1トンくらいあります。
「だいち4号」の最近の成果
廣末:「だいち4号」の衛星データはいつから使えるようになりますか?
勘角:今は画像の検証を行っていて、皆さんへの公開はもう少し先になります。
廣末:「だいち4号」は災害の役にも立つんですよね。すごく遠くからでも地面の小さな動きが分かって、みんなの安全を守っていると聞きました。
伊藤:そうなのです。では「だいち2号」と「だいち4号」の最近の成果を一緒に見てみましょうか。
自由研究では令和6年能登半島地震について地理院地図で見てもらいましたが、こちら(図1 左)は「だいち2号」の観測データを元に、能登半島地震の前後で地面がどのように動いたかを表したものです。
濃い紺色の部分が衛星に近づいていて、地面が隆起している事を表しています。
自由研究で「陸が4m上がっている」と紹介されていた鹿磯漁港周辺で、実際に衛星画像からも4m衛星に近づき、隆起していることが読み取れます。(※1)「だいち2号」、「だいち4号」のデータをたくさん使うとセンチメートル、ミリメートルの単位で地面がどう動いたかが分かります。
勘角:地震や大雨などの災害が起きた時は、なかなか人が被災地に入っていくことが難しいですが、人工衛星であれば発災後すぐにどんな状況か把握できることが強みです。

2023年6月6日(地震前)と2024年1月2日(地震後)の観測データによりピクセルオフセット法で検出した地殻変動図
右:「だいち2号」及び「だいち4号」観測データによる岩手山の地殻変動の観測結果
(2024年8月13日~2024年10月2日)国土地理院による解析結果
伊藤:次の画像(図1 右)は、岩手県にある岩手山という標高2000mくらいの山の衛星画像なのですが、2024年8月13日に「だいち2号」が撮った画像と、2024年10月2日に「だいち4号」が撮った画像を使って調べたところ、ピンク色の部分が膨らんでいて火山活動をしていることが分かり、現在重点的に観測することになっています。これは「だいち4号」の観測データが活躍した最初の事例です。(※2)
廣末:凄い!ばりばり活躍しているね!
地球が好き

廣末:宇宙の何が好きですか?
本岡:この仕事を始めたきっかけでもあるのですが、実は宇宙というより、「地球が好き」です。地球って本当に綺麗ですよね。宇宙から観測した地球のデータを元に、自分で地球の画像を作り出すことができることにやりがいを感じています。
伊藤:宇宙にはまだまだ分からないことがたくさんあって、それが面白いです。想像力を掻き立てられてワクワクしますね。それに宇宙から地球を見ると、今まで気づかなかった発見がたくさんあって、それもまた魅力です。
勘角:宇宙から地球を見るのが私たちの仕事なので、結局みんな地球が好きなのかもしれないですね。
廣末:JAXAで働くにはどんな勉強をしたらいいですか?
勘角:JAXAで働いている人は皆が人工衛星やロケットの勉強をしてきた人ではありません。私もそうです。大切なのは色々な人と話して、多様な考えを吸収する力を身につけることだと思います。
私たちはJAXAの人工衛星の開発をする人とだけ話をしているわけではなく、企業や海外の方々とも協力して仕事をしています。色々な方の意見を尊重し、人の気持ちに寄り添って話ができる人になることが、JAXAのみならず成長していく上で最も大切だと思っています。
廣末さんがこれから多くの方々と出会って成長し、将来一緒に働いてくれることを楽しみにしています。
廣末さんの自由研究では、「だいち」シリーズ衛星について分かりやすくまとめられていました。苦労したこととして、文章を書いたりまとめたりするのが大変だったと対談の中で教えていただきましたが、要点をおさえて自分の言葉で考えたことや感じたことを書かれていて、「だいち4号」や「だいち2号」の凄さを皆に伝えたいという思いが伝わってくる内容でした。
「だいち4号」は「だいち2号」の後継機として2024年7月1日に打ち上げられました。地球全体を定期的に観測することにより、国土全体の地殻変動、災害状況、地球環境変化、海洋など、多様な分野での貢献を目指します。
関連情報:
先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)
※1:「だいち2号」による令和6年能登半島地震の観測結果について
※2:先進レーダ衛星「だいち4号」(ALOS-4)による初の地殻・地盤変動の観測に成功しました!
2025.02.13 文:松﨑