国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、米国航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)、フランス国立宇宙研究センター(CNES)、カナダ宇宙庁(CSA)と協力し、地球観測衛星データの活用や探査等に関するバーチャルハッカソン(※1)「Space Apps Challenge2020(2020年10月3日、4日開催)」の優勝7チームを選定いたしました。
「Space Apps Challenge 2020」の参加チーム数は世界148か国から3,800以上にのぼり、JAXA、NASA等が提供する様々な地球観測データを利用して、感染症や災害・気候変動等に対するアプリケーションの開発検討がなされました。そして最終的には2,303件の課題への解決策(プロジェクト)が提出され、第一次審査でファイナリスト40チームを選出、最終審査を経て優勝7チームを選定いたしました。
JAXAは、今回のハッカソンへの協力として、「JAXA地球観測衛星データの情報を提供」、「提出されたプロジェクトの審査」などを実施し、JAXAの地球観測衛星データを世界に広く知ってもらう機会となりました。これを契機に、JAXA衛星のデータ利活用が拡大し、社会の課題解決に貢献することを期待いたします。
1.バーチャルハッカソン「Space Apps Challenge 2020」の開催実績
- 日時:2020年10月3日(土)、4日(日)
- 参加者:26,165人(148か国)
- 提出されたプロジェクト数:2,303件
2.優勝7チームのプロジェクト概要
賞/チーム名(地域) | プロジェクト概要 |
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Best Use of Data (データアクセスをし易く、またはユニークなデータ活用をしている賞) Monsoon Overflow |
洪水は、豪雨やダムの決壊等によって引き起こされ、最も頻繁に発生する自然災害であるが、広範囲にわたる荒廃を引き起こし、人命の損失、財産及び重要なインフラへの損害をもたらす可能性がある。衛星データとクラウドソースデータを使用して、洪水による重大なインフラの損傷を検出して、タイムリーな意思決定を行う。究極の目標は、死傷者ゼロと迅速な回復(24時間以内)。このプロジェクトは、2つの項目で構成される。一つは、InfraSaveという名前の携帯アプリであり、洪水によって損傷したインフラが撮影された位置情報付きの写真を集める。2つ目は、損傷検知アルゴリズムであり、洪水の発生前後の衛星画像から重大なインフラの損傷範囲を把握する。 |
Best Use of Technology (最も革新的な技術の活用例を示している賞) FireWay |
宇宙空間で衛星に給電することで、寿命を延ばすというプロジェクト。衛星は燃料が尽きると、軌道にとどまることができなくなり、さまよい始める。 衛星に燃料を追加すれば寿命を延長することができ、企業や政府は代替機の開発や打上げ費用を抑えることができる。プラグを備える給電ステーションと、衛星にソケットを備えることで、衛星の寿命を延ばすという提案。 |
Best Mission Concept (成立しうるコンセプト、デザインの賞) Loud and Clear |
没入型のSTEM(科学、技術、工学、数学)体験をするための脱出ゲームを製作。地球と火星の間の通信に関する課題(信号の遅延、信号の質、データ量の制限や破損等)を解決すべくチームは協力し、地球との通信ができなくなる前に車内に戻らなければならない。今後の火星探査ミッションに向けて、宇宙飛行士が取り組まねばならない通信に関する課題解決に挑む。 |
Galactic Impact (地球上や宇宙での生活を向上させる可能性が最も高い賞) Project L.L.O.C.U.S.T. |
L,L.O.U.S.Tプロジェクトは、イナゴの居場所を検出し、脆弱な地域におけるイナゴの動きを予測するもの。イナゴの数を増やす要因である風、湿度、表面温度、植生指数といった情報をNASAの衛星データから取得し、これで訓練した機械学習モデルを使用して、L,L.O.U.S.Tというイナゴの蔓延リスクが高い地域のヒートマップを作成。AIを活用したインタラクティブでユーザフレンドリーなウェブサイトを通じて、農家や市職員、企業等はモデルが検出したものや予測をインタラクティブな地図で見ることができる。 |
Most Inspirational (解決策が最も心に響いた賞) A.I. Itruistics |
機械学習やチャットボックス、自動読み上げやAIを用いて、アインシュタインやキュリー夫人など「科学ヒーロー」から科学を学ぶことができる学習プラットフォーム「A.I.HEROES」を提案。子供たちや10代の若者は、物理や数学、天文学や他の科学を学びはじめの段階において、理解が困難であった際に退屈だと感じ始め、まだ幼いうちに興味を失うということがある。「A.I.HEROS」によって、子供や若者を科学の世界に没頭させ、より身近で楽しいものとすることができる。 |
Most Inspirational (解決策が最も心に響いた賞) Team Twilights |
衛星データを使ったゲーム。生物多様性に対する人為的な影響について、すべての年代の人が学ぶことができる。絶滅危惧種の動物を選択し、汚染や生息域の減少などの影響を知ることができる。また、地域の変化をみせるために、衛星画像を提示している。 |
Best Use of Science (科学的手法や科学を有効活用している賞) ASPIRE |
地上データ(GBIF:Global Biodiversity Information Facilityからの生物種にかかるOccurrence Data)とNASA衛星データ(温度、降水、エアロゾル光学的厚さ、植生)をモデルに統合し、特定の生物種に対する予報マップを作成。生物多様性は、二つの2スケールで測定(Richness and Shannon index)。モデルでは、環境情報に対する統計処理を行う。例えば、温度に対しある種の生物が適応可能かどうかなど。このように各衛星情報に対する処理をして予報マップに統合している。予測マップは選択した生物の存在の可能性が高いポイントを示す。 |
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※ファイナリスト40チームの情報:
https://2020.spaceappschallenge.org/awards/global-finalists
本ハッカソンの最終審査にあたってJAXA審査委員からのコメント
JAXA 可知美佐子(第一宇宙技術部門地球観測研究センター、研究領域主幹)
さまざまな課題に対して世界中から提案された多種多様な観点の解決策は、私にとっても初心を思い出す良い機会になりました。
このような活動を一つのきっかけに、宇宙や地球に関する観測データや技術が決して特別なものではなく、
社会や一人ひとりの生活にとって身近で役立つものでもあることを、より多くの方々に実感いただけたらと思います。
JAXA 木下圭晃(有人宇宙技術部門事業推進部、計画マネージャ)
私たちの暮らしをより便利に、快適に、実りあるものにできるように、どの提案も大変工夫が凝らされていました。
宇宙技術の可能性を改めて実感しました。提案者たちに負けないよう、私たちも日々の研究開発業務に取り組みたいと思います。
※1:ハッカソンとはエンジニアなどがチームを作り、共通の課題に対してアプリケーションやサービス開発し成果を競う開発イベントです。