イベント
2022.06.13(月)
熊本で第4回アジア・太平洋水サミット公式サイドイベント『宇宙技術による水問題対策への貢献』を開催しました!
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、2022年4月23日(土)~24日(日)に熊本市で開催された第4回アジア・太平洋水サミット(APWS)の公式サイドイベントとして、一般シンポジウムおよび現地展示会『宇宙技術による水問題対策への貢献』(*)を開催いたしました。ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
(※)第4回アジア・太平洋水サミット(APWS)公式サイドイベント
JAXA主催の一般シンポジウム及び現地展示会『宇宙技術による水問題対策への貢献』https://www.satnavi.jaxa.jp/apws-kumamoto-2022/apws_j.html
https://www.satnavi.jaxa.jp/apws-kumamoto-2022/apws_e.html
シンポジウムの講演資料は上記ウェブサイトから御覧ください。
■一般シンポジウム『宇宙技術による水問題対策への貢献』(4月23日(土)17:10~18:40)
アジア太平洋地域は、水災害を中心にした気候変動に対して脆弱であることを踏まえ、水災害の被害低減には、タイムリーな観測による現場の状況把握に加えて、短期の気象予測から長期の気候変動予測まで、予測能力を上げて対応していくことが課題となっているという問題意識から、本シンポジウムでは国内外から専門家をお招きし、水災害や農業における課題に関する議論を行いました。
開会の挨拶
開会の挨拶として、文部科学省の林孝浩審議官から、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」で議論されている気候変動リスクに適応するためには、水災害発生時のリアルタイム観測による現場把握や、短期から長期までの予測技術を活用した水災害対策が求められており、衛星による全球の均質的・長期的な観測は、水災害や水資源分野における課題解決に必要不可欠なデータであること、また、JAXAではこれまで衛星データを活用した水災害情報やリアルタイム降雨データの提供といった水災害対策に貢献する取組を推進してきており、今後も衛星データの安定的・継続的な取得と蓄積が水災害の被害低減や農業安全保障をはじめとする水に関連する分野の課題解決に貢献することへの期待が述べられました。
キーノートスピーチ
キーノートスピーチとして、駐日米国大使館からラーム・エマニュエル駐日米国大使とジョン・C・テイラー在福岡米国領事館首席領事にご登壇いただきました。
ラーム・エマニュエル駐日米国大使からは、米国でも気候変動の影響を重くとらえ、パリ協定に復帰し、これまでの情報のレビューを行っていること、駐日米国大使館でも日本政府と協力しながらこの課題に立ち向かい、持続可能な明るい未来を私たちのため、そして子供たちのために取り組んでいること、またシカゴ市長を務めていた頃、水不足に悩むシカゴとイスラエルの大学が将来世代にどのように貴重な資源を残せるかという観点で水保全や浄水などの共同研究を行ったこと、オバマ政権の首席スタッフとして出席した初めての会合において、内戦や紛争地域を表した地図と渇水の地域の地図とが重なることを知り、水不足に対して大学や政府、コミュニティが協力する重要性を感じたといったご自身の経験を紹介いただき、今回の水サミットの協議の結果が将来への道筋を描く生産的な場となることへの期待が述べられました。
続いて、ジョン・C・テイラー在福岡米国領事館首席領事からは、気候変動が地球に与える影響の大きさは無視できないものになっており、その影響が海洋の温度上昇、海面上昇、酸性化などとして明らかに出ていることから、海洋を含めた地球の水環境を保つためには今行動を起こすことが必要であり、米国でも水資源やインフラに投資していることが紹介されました。また、米国では、海洋を保全しながらの持続可能な経済を支援しており、それには科学と技術が重要であること、気候変動が海洋の生態系に与える影響に対して、明確な科学的根拠があること、米国と日本に留まらず、多くの国が課題解決へ向けて協力することの重要性が述べられました。
第一部: 宇宙技術の紹介
第一部:宇宙技術の紹介では、JAXAの山川宏理事長及びNASAのKaren St. German地球科学部門長から、JAXAとNASAそれぞれの水問題対策への衛星ミッションが紹介されました。
山川理事長は、現在から未来へ向けて、水災害をはじめとする気候変動によって引き起こされる様々な問題に対処するためには、全球を均一かつ長期間にわたって観測し、地球環境の変動メカニズムの理解を深めていくことへの重要性が述べられ、JAXAは全球で均質な観測を30年以上にわたって実施していきていることを紹介しました。また、災害や衛星観測には国境はなく、地球規模課題の解決には、世界中の国々が一丸となって取り組む必要性が述べられました。
特に降水観測においては、1997年に熱帯降雨観測ミッション(TRMM)、2014年に全球降水観測ミッション(GPM)主衛星を打上げ、20年以上にわたって米国NASAと協力して世界中の降水データを取得してきていることや、日本の強みである長年の衛星降水観測の知見を活かし、現在NASAと検討中の将来ミッションでも衛星降水観測技術でリードしていくことについて触れられました。
JAXAは、長期間の全球観測によって得られた情報が、世界中の国々の間で役立てられるよう、引き続き、宇宙機関や政策関係者、実利用機関と緊密に連携し、課題解決に向けて貢献すること、また、熊本宣言において、水問題解決における科学技術の提供が強く求められているところ、JAXAは衛星観測の継続と観測技術の強化で応えていきたいことが抱負として述べられました。
Karen St. German地球科学部門長からは、気候変動のような課題への対応には、協力体制を築くことが重要であり、国際的な宇宙機関間の対話やパートナーシップが必要であることが述べられました。現在、フランスとの協力により進めている海域および陸域の水面標高ミッションであるSWOT(Surface Water and Ocean Topography)、インドとの協力の下進めている地球の陸面を観測する合成開口レーダミッションであるNISAR(NASA-ISRO Synthetic Aperture Radar)などの将来打上げ予定のものを含むNASAの衛星が紹介され、機関間協力による対応の重要性が強調されました。
また、エアロゾルや雲・対流・降水を観測するミッションとしてJAXAも協力して検討中であるAtmosphere Observing System(大気観測システム)について紹介され、JAXAの降水観測における貢献がサイエンスの価値を高めることについて言及し、水循環の分野では特に重要なパートナーであることが述べられました。
第二部: パネルディスカッション「観測データに基づく水問題の解決に向けて」
第二部:パネルディスカッション「観測データに基づく水問題の解決に向けて」では、JAXAの沖理子地球観測研究センター長の司会で、5名の国内外の水の専門家によって、それぞれの立場から水問題に対してどのような活動が行われているか紹介が行われました。続いて、それらの活動の重要性や今後の課題へ向けて何が必要であるか議論が行われました。
フィジー気象局気象予報センター/ナンディ地区特別気象センターのStephen Meke氏から、フィジーの気象サービスにおける衛星データの利用事例紹介がされました。洪水への早期警戒に、JAXAがリアルタイムで提供する衛星全球降水マップ(GSMaP)が非常に役立っており、様々な推定に使用されていることが紹介されました。
フィリピン大気地球物理天文局のSocrates F. Paat, Jr.氏からは、フィリピンでの気象予測に衛星データを活用している事例が紹介されました。島国でありながら1000を超える河川があり、サイクロンなどから様々な水災害を受けていることから、多目的ダムの運用に衛星データから得られる情報を活用したり、洪水対応のために日本政府やJAXAの協力を得ながら改善したりしていることが紹介されました。
土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM)のMohamed Rasmy主任研究員からは、水災害の増加や気候変動、災害対応を例に衛星データの重要性が述べられ、GSMaPを活用し、最適な雨量計設置を検討することでリアルタイムの河川流域の高精度な降水データ取得を実現し、洪水予測に活かす事例が紹介されました。また、そのような情報を経済など様々な分野にも活用することで、水災害被害の緩和や水資源の確保、SDGsへも貢献できることが期待として述べられました。
農林水産省の木村恵太郎統計企画管理官からは、農林水産省で国際協力の一環として支援しているASEAN食料安全保障情報システム(AFSIS)における取組みの1つである、Rice Growing Outlook報告書(RGO)を紹介いただきました。RGOは、土壌水分量や降水量といった水関連のデータを含む、衛星の気象観測データを用いた水稲生育状況レポートであり、正確かつタイムリーな情報提供により、地域の食料安全保障に資するもので、AFSISのウェブサイトで公開されています。本報告書では、正確な情報を提供するために、JAXAが衛星データを活用して開発した農業気象情報システム(JASMIN)による情報を基に予測が行われ、農業分野でも衛星が活用されていることが紹介されました。
アジア開発銀行のNeeta Pokhrel氏からは、コスト効果が高く信頼性の高いツールとして衛星データが挙げられ、市民を守る情報として活用を展開していく必要性と政策を作成する側が活用する有効性の両面から、宇宙機関が提供しているデータが有用であることが述べられました。また、洪水などの災害における活用だけでなく、農業などの他分野での活用も含めて、46の地域のメンバー国へ衛星データの活用を展開していくことがADBの目標であることが紹介されました。
セッションの最後に、沖理子地球観測研究センター長からセッションサマリとして、Mr. Socrates F. Paat, Jr.やMr. Stephen Mekeの発言にあったように、衛星データがアジア太平洋地域にとって有益であり、更なる改善が必要である点をJAXAも認識していること、より高度にアップデートされた衛星データによるGSMaPのようなシステムの社会実装を行っていくために、より正確で長期にわたる衛星データを提供し、新しいミッションを通じて、Dr. Mohamed RasmyやMs. Neeta Pokhrelが言及したようなグローバルな水関連課題に貢献していくことを目指していくことが述べられました。
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