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2022.03.16(水)

JAXA・東京大学・三菱電機共同研究「将来型衛星測位システムの高精度軌道推定技術の研究」成果利用による準天頂衛星の精密軌道暦を2月28日に公開~より高精度な科学研究や測量等に利用される精密測位へ貢献~

JAXA、国立大学法人東京大学大学院工学系研究科、三菱電機株式会社は、準天頂衛星の軌道時刻推定精度の向上を目的に「将来型衛星測位システムの高精度軌道推定技術」をテーマとして2020年1月より三者共同で研究を進めています。この度、本研究の成果を利用した準天頂衛星の精密軌道暦を2022年2月28日よりMADOCA公式webサイト にて公開しましたのでお知らせいたします。
地球科学や気象科学研究、測量分野等に利用される準天頂衛星をはじめとした測位衛星の精密軌道暦を生成するためには、衛星にはたらく加速度の高精度なモデル化が必要です。従来のモデル化手法では、衛星の打ち上げ後半年から1年程度のデータ蓄積やチューニングを行っていたため、打ち上げ直後の衛星の精密軌道暦を提供することができませんでした。そこで、このデータ蓄積やチューニングが不要な高精度な加速度モデルを開発すべくJAXA・東京大学・三菱電機の三者で共同研究を続けて参りました。
2021年10月26日に、共同研究の対象の一つである準天頂衛星QZS1Rが打ち上げられ、軌道上での確認作業が12月に完了し、試験信号の送信が開始されました。共同研究内で当衛星のモデル作成及び改善を行った結果、打上げのわずか2ヵ月後の時点で、すでに打ち上げから1年以上経過している準天頂衛星1~4号機と同程度の高精度で信頼性の高い軌道暦の生成に成功したため、軌道暦の公開に至りました。これにより、これまで得られなかった打ち上げ直後の精密軌道暦の利用が可能となり、上述の科学研究や測量等で利用される精密測位において、測位結果の高精度化に寄与することはもちろん、測位衛星のリソースを最大限利活用することも可能となります。
公開URL:https://mgmds01.tksc.jaxa.jp/

<本研究について>
1. 背景
衛星測位システム※1から放送される信号には、衛星の軌道位置や時刻情報が含まれています。これらの情報と、測距信号に基づき計算された衛星と受信機間の距離を基に、今日広く利用される携帯電話等での衛星測位は実現されています。一方、気象科学や地球科学といった分野の科学研究や、測量等に利用される精密測位にはより高精度な軌道暦が求められます。JAXAはこれまで、精密な軌道暦をMADOCA※2と呼ばれるソフトウェアを用いて生成・配信してまいりましたが、さらなる精度向上を目指し、東京大学、三菱電機と共同研究契約を締結し研究開発を進めています。

※1米国のGPS、日本の準天頂衛星(QZSS)、ロシアのGLONASS、欧州のGalileo、中国のBeiDou等
※2:MADOCA(Multi-GNSS Advanced Demonstration tool for Orbit and Clock Analysis)はJAXAにより研究開発が進められるGPS, GLONASS, Galileo, BeiDou, QZSSの精密軌道暦を生成するソフトウェアの名称です。

2. 研究概要
精密な軌道暦生成には、衛星に働く様々な外乱加速度、特に太陽輻射圧と呼ばれる太陽光に衛星がさらされることで生じる加速度を高精度にモデル化する必要があり、世界ではこれらの研究が盛んに行われています。これまでJAXAは経験的モデルと呼ばれる、長期にわたり蓄積された測位衛星の観測データを元にモデルを構築する手法で外乱加速度を推定し、高い軌道推定精度を実現しておりました。しかし、本モデルには長期に渡るデータの蓄積やチューニング作業が必要であり、測位衛星就役直後に精密な軌道暦を生成することが難しいという課題がありました。この課題を解決するためには衛星に働く加速度を、過去の観測データに依存せずに計算する必要があります。
そこでJAXAは、東京大学中須賀研究室により研究が進められる「事前テンソル計算を用いた解析的な宇宙機外乱モデル(以下、東大モデル)」に着目し、2017年より準天頂衛星初号機を対象に共同研究を進めてまいりました。本研究は、衛星の幾何学情報や衛星部材の光学特性情報等を事前に処理することで、観測データの長期に渡る蓄積無しに衛星に生じる太陽輻射圧加速度や熱輻射圧加速度の精密な算出を実現するものです。2019年度末より、準天頂衛星の製造者である三菱電機が共同研究に加わり、QZS 2、3、4号機に研究対象が拡張され、2021年度にはこれまでの研究成果を受けQZS初号機後継機(以下、QZS1R)の東大モデルの作成が行われました。
その後、2021年10月26日にQZS1Rが打ち上げられ、軌道上での確認作業が12月に完了し、試験信号の送信が開始されました。JAXAは上述の東大モデルを組み込んだMADOCAを利用し、世界に先駆けて12月中旬には当該信号に基づいた軌道推定実験を開始し、事前の評価を行ってまいりました。結果、図1に示すように、比較的高精度で信頼性の高い軌道暦の生成に成功したことから、打ち上げ直後のQZS1R含むQZS全号機の軌道暦公開に至りました。

図1. 東大モデル利用QZS1R暦のSLR※3残差評価結果
(縦軸:残差[m]、横軸:時間、青点:既存モデル、色点:東大モデル)

※3 SLR(Satellite Laser Ranging) :地上のSLR局からレーザ光を発射し、衛星に搭載されたリフレクタからの反射を計測することで測距を行う。世界各地にSLR局は設置されており国際機関によりこれらの測距データが公開されている。

3. 公開情報
上述の軌道暦についてはftp経由でダウンロード可能です。下記URLよりアクセス方法をご確認ください。
MADOCA Products, NEWShttps://ssl.tksc.jaxa.jp/madoca/public/public_news_en.html

4. 今後について
JAXAは科学コミュニティや実用準天頂の将来開発に寄与することができるよう協力組織と協調してMADOCAの研究開発を進めてまいります。

5. 参考
準天頂衛星システムについて : 宇宙開発 – 内閣府  https://qzss.go.jp/

東大モデル論文:
① S. Ikari, and et al., “Precise orbit determination of QZSS satellites with high-fidelity non-gravitational disturbance model”, https://s3-ap-southeast-2.amazonaws.com/igs-acc-web/igs-acc-website/workshop2018/presentations/IGSWS-2018-PY02-04.pdf, IGS Workshop, Wuhan, 2018
② S. Ikari, and et al., “A Novel Semi-Analytical Solar Radiation Pressure Model with the Shadow Effect for Spacecraft of Complex Shape”, Advances in the Astronautical Sciences Spaceflight Mechanics, Vol. 158, pp. 3053-3069, 2016.

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