お知らせ

2025.03.17(月)

EarthCARE衛星(はくりゅう)による雲・エアロゾル観測データ
(レベル2プロダクト)の一般提供を開始しました!

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、雲エアロゾル放射ミッション「EarthCARE」衛星(はくりゅう)による雲やエアロゾルに関するデータ(レベル2プロダクト)の一般提供を2025年3月17日から開始しました。

はくりゅうには、JAXAと情報通信研究機構(NICT)が開発した雲プロファイリングレーダ(CPR)、欧州宇宙機関(ESA)が開発した、大気ライダ(ATLID)、多波長イメージャ(MSI)、広帯域放射収支計(BBR)が搭載されています。

2025年1月14日より、各センサ単体の観測データを工学値変換したレベル1プロダクトの提供を開始しています。レベル1プロダクトの工学値をもとに大気物理学的な値に変換したデータが、レベル2プロダクトとなります。レベル2プロダクトはさらに、センサごとに作成するもの(センサ単体プロダクト)、複数のセンサによる情報を統合して作成するもの(センサ複合プロダクト)に分類されます。プロダクトの種類について、詳しくはこちらをご確認ください。

■ATLIDによるエアロゾル観測

ゴビ砂漠やタクラマカン砂漠ではしばしばダストストーム(砂塵嵐)が発生し、アジアにおける主要なダストの発生源として知られています。特に春季(3~5月)にダストストームが発生しやすく、対流圏上部にまで達します。そのダストが偏西風に乗って海を越えて運ばれることもあり、日本では「黄砂」として観測される現象として知られています。図1は、ATLIDにより観測されたゴビ砂漠のダスト(砂塵)を含むエアロゾルの高さ分布です。橙色で示される領域がゴビ砂漠の位置に対応しており、高度5km付近にて赤系統色でエアロゾルが分布している様子が捉えられています。ATLIDレベル2プロダクトはエアロゾル、雲、及び晴天領域の分類だけでなく、エアロゾル種の識別を含みます。エアロゾル種のひとつが主に砂漠から発生するダストで、図1に示した高さ情報を含むダストの分布情報は黄砂予測の精度向上に貢献します。

図1:ATLIDにより観測されたゴビ砂漠のダスト(砂塵)を含むエアロゾル観測事例。観測日は2025年1月19日。下図はエアロゾル/雲種別分類の鉛直断面図であり、赤系統色はエアロゾル、青系統色は雲、水色(最も薄い青)は晴天領域、灰色はノイズが大きい又はデータが無い領域を示す。図下部のカラーバーは右上に示すEarthCAREの軌道の色と対応する。

■CPRとATLIDの複合プロダクト

図2は、CPRとATLIDのセンサ複合プロダクトによる大気鉛直速度と沈降速度の例です。レベル1プロダクトでは、「ドップラー効果」と呼ばれる現象を利用して、雲粒や雨滴が上下にどのように動いているのかを測定した「ドップラー速度」を提供しました。レベル2プロダクトでは、雲の中に存在する粒子の種類や量を詳しく分析することで、ドップラー速度を「大気鉛直速度」と「沈降速度」の2つに分離して求めることができます。大気鉛直速度とは、大気そのものの上下方向の動きを示し、例えば上昇気流や下降気流などの空気の流れを指します。一方、沈降速度は、雲粒や雨滴が重力の影響を受けて落下する速度を指します。これにより、雲内部で発生する動きの詳細な理解が可能となります。これらは非常に開発要素が多く、チャレンジングでありつつ、科学的に価値が極めて高い変数で、はくりゅうで衛星データとして世界で初めて実現した、特出すべき変数となります。

図2:CPRとATLIDのセンサ複合プロダクトによる大気鉛直速度と沈降速度。2025年2月23日に観測されたアフリカ南部の雲域の事例。中央図は大気鉛直速度、下図は雲粒・雨粒の沈降速度の鉛直断面図であり、暖色系統は上向き、寒色系統は下向きの速度を示す。黒線は地表面を示す。

図3はCPRとATLIDの複合プロダクトによる雲量の全球分布(2025年2月)を示しています。南アメリカ大陸のアマゾンやアフリカ大陸の赤道上で雲が多く、アフリカ大陸北部のサハラ砂漠やアラビア半島では雲が少ないことが分かります。緯度10度から20度の大陸西岸の海洋上では、亜熱帯高気圧が発達して雲が少ない傾向があります。また、ペルー沖の赤道東部太平洋に、海面水温が低く、雲が少ない領域があります。北半球の大陸東岸の中緯度海洋上や南半球の中緯度海洋上に雲の多い領域が見られます。これはストームトラックと呼ばれる低気圧の活動が活発な領域です。このように、世界でも、雲が多い地域と少ない地域があることが分かります。

図3:CPRとATLIDの複合プロダクトによる雲量の全球分布。2025年2月6日から28日までの期間で解析。

■MSIによる雲の水平分布観測

図4は、2月16日にMSIが観測した日本上空の雲の水平分布です。図左側は雲の厚さを表す物理量(雲光学的厚さ)で、図右側は雲上部の温度(雲頂温度)を示しています。この日は日本海側に薄い雲がひろがり、太平洋側の紀伊半島南部あたりで厚い雲が分布していることがわかります。
MSIは雲の水平分布を観測することができるため、CPRやATLIDのような鉛直分布を観測するセンサと組み合わせることで、3次元的に雲の構造を捉えることができます。

図4:MSIにより観測された日本上空の雲光学的厚さと雲頂温度(2025年2月16日)
赤線は衛星の軌道を示す。

はくりゅうの観測データは、JAXA及びESAのサイトからどなたでもご利用いただけます。
JAXAのサイト(日本語)
JAXAのサイト(英語)
ESAのサイト(英語)

気候変動予測における難題の1つは、二酸化炭素などの増加などにより気温が上昇すると、雲がどのように変化し、その変化が温暖化の加速と減速のどちらに働くのかを予測することがあります。温暖化への雲の影響を定量的に評価するためには、温暖化時にどの高さの雲がどのような高度に移動し、雲の特性がどのように変化するか、科学的に理解することが重要となります。近年、観測技術や数値モデルの高度化により、雲の物理プロセスに関する研究が進展し、温暖化時の雲の振る舞いについての理解も深まっています。しかし、雲が温暖化へ与える影響は依然として十分に定量化されておらず、温暖化予測における最大の不確実性要因となっています。はくりゅうのデータを活用することで、気候変動を予測するモデルを評価・改良していきます。それにより精度の高い気候変動予測につながり、気候変動への適応策の検討にも貢献します。

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