国内・国外の自然災害における「だいち2号」による緊急観測対応について（2024年1月～12月）

安全で豊かな社会を実現するために、JAXAは人工衛星を活用した防災活動に取組んでいます。本記事では、2024年における「だいち2号」を用いた災害対応や関連活動をご紹介します。

「だいち2号」は、地球を南北方向に周回する地球観測衛星で、レーダセンサにより地表の観測を行っております。平常時は、森林分布の把握や農地の観測、地殻変動の計測などを目的として定常的に地表の変化を観測しています。
数センチ単位の精度で地表の動きをとらえることに加え、夜間や悪天候時でも、宇宙から広範囲を一度に観測できる特長を活かして、自然災害が発生した際には緊急観測を行い、その結果を土砂災害や水害などの被害状況を速やかに把握することにご利用いただいています。

●緊急観測

図1は、地震や豪雨（水害、土砂災害等）、火山活動などによる自然災害が発生した際に、関係府省庁や自治体からの観測要請を受け、被災エリアを対象とした緊急観測を行い、被災状況に関する情報をプロダクトとして提供するまでの流れを示しています。

防災ユーザからの緊急観測の要請を受けて、観測機会や角度などの条件を人工衛星の運用に反映するために観測要求作成（タスキング）を実施します。　この観測要求に基づいた観測が行われたのち、衛星画像が地上に送信されて必要な情報抽出のための処理を加えます。この際に、地理情報との一体化を図るなど利用者にとって活用する形式に整えて、プロダクトとして製作されております。SAR画像の場合は、浸水域や土砂移動域を含む地表の変状域を赤や青に発色させた災害速報図、変状域のうち推定発災域を詳しく判読した被害区域図などが代表的なものです。このように製作された情報がプロダクトとして防災ユーザに提供されます。

●プロダクトの製作・提供

JAXAは「だいち2号」で得られた観測データを、緊急観測の要請元に①災害速報図（RGBカラー合成）や②被害区域図等のプロダクトとして提供しています。

①災害速報図（RGBカラー合成）
図2に災害速報図の製作方法（RGBカラー合成）の概要を示しています。
「だいち2号」により撮像した災害発生前と後の2時期の画像を用いて、災害前の画像を赤色（R）、災害後の画像を青色（B）と緑色（G）の濃淡画像とした後、画像を合成すると変化がある箇所が図3のように赤色や水色で強調されます。

緊急観測により作成した災害速報図例を図3に示します。水害や土砂災害により、変状箇所が赤色や青色に発色されます。この情報をもとに詳細な解析・判読を行い、推定被害域を示す被害区域図が製作されます。

②被害区域図
図4・5に被害区域図の事例を示します。 被害区域図とは、いずれも①で示した災害速報図の情報を詳細判読・解析して製作されます。

図4は、水害時の推定浸水域を示す被害区域図で、東北地方にて記録的な大雨となった2024年7月26日に山形県を観測し解析したものです。図４の被害区域図では、豪雨により浸水が発生したと推定される箇所を青線で囲む領域（ポリゴン）として示しています。これらは、緊急観測実施から約2.5時間後を目処にプロダクトとして提供しています。

図5は、土砂災害時の推定土砂移動域を示す被害区域図で、能登半島地震発生後の2024年1月1日に観測し製作したものです。

図5の被害区域図では、地震による土砂移動が発生したと推定される箇所をオレンジ線で囲む領域（ポリゴン）として示しています。これらは、緊急観測実施から約3～5時間後を目処にプロダクトとして提供しています。

●国際的な防災活動への貢献

「だいち2号」は国内に限らず、海外で自然災害が発生した場合も、被災国の防災機関等の要請に基づいて緊急観測を実施し、衛星データや解析結果を提供しています。JAXAは「センチネルアジア」や「国際災害チャータ」といった国際的な防災枠組み一員としても活動し、図6のように「だいち2号」のデータが世界の防災や減災に活用されています。

これらの情報はセンチネルアジアのメンバー以外の方もウェブサイト（英語）より閲覧及びダウンロードすることが可能です。

図7は、2024年11月11日に台風23号がフィリピンを通過したことによる洪水・地すべりが発生したため、センチネルアジアが発動された際に、「だいち2号」の緊急観測によるデータを基に被害推定域を自動抽出したプロダクトのスクリーンショットになります。

図7をクリックすると、センチネルアジアウェブサイトにて公開しているWebGIS上での情報を自由自在に動かしながら見ることができます。ぜひご覧ください。

万が一日本で災害が発生した際には、同枠組みを通じてこれまでも海外の宇宙機関や防災機関から人工衛星データならびに解析情報を提供してもらい、国を超えた助け合いを実現しています。

●2024年の緊急観測対応実績

2024年12月31日時点で、「だいち2号」は国内外合わせて計136回の緊急観測を行いました。図8に示されている緑枠は、2024年1月から12月の間に実施した国内における緊急観測の観測範囲を表しています。

「だいち2号」の1回の観測幅（緑枠）は50kmですが、2024年7月に打上げられた「だいち4号」では観測幅が最大200kmとなるため、一度に観測できる範囲が4倍になり、さらに迅速かつ広範囲での観測が可能となります。

表1、表2では、国内外で発生した災害について、「だいち2号」による観測日、対象エリア、区分を記載しています。なお、「だいち2号」は1日に2回の観測が可能で、同日に2回観測したケースも含まれています。

今後もJAXAは、災害発生時の情報源の一つとして人工衛星のデータと情報提供を通じて、災害時の情報支援に取り組んでまいります。

だいち2号による 観測日 （日本時間）	対象エリア	区分
1/1、1/2、1/3、1/8、1/9、 1/12、1/23、1/26、2/9、 2/23、3/8、3/19、3/22、 4/5、4/19、5/17、5/31、 6/3、6/14、6/28、8/9、 10/4	能登半島（石川県）	地震
4/18	愛媛県、高知県	地震
4/26、4/27	口永良部島（鹿児島県）	火山
6/14、6/16	焼岳（長野県）	火山
7/25	北海道	洪水
7/25	秋田県	洪水
7/26	山形県	洪水
8/8、8/9	宮崎県	地震
8/11、8/12	青森県、岩手県、宮城県	洪水（台風5号）
8/30、8/31、9/1	福岡県、大分県、宮崎県、神奈川県、 東京都、埼玉県、群馬県、三重県、 滋賀県、静岡県、山梨県、和歌山県、 愛知県、岐阜県	土砂（台風10号）
9/22、9/23	能登半島（石川県）	土砂
10/22、10/23	宮崎県、大分県	土砂
8/13、8/15、9/26、10/8、 10/24	岩手山（岩手県）	火山

だいち2号による 観測日 （日本時間）	対象エリア	区分
1/25	中国（ウイグル）	地震
3/18、3/25	インドネシア	洪水
4/4、4/12、4/14	カザフスタン	洪水
4/4、4/5	台湾	地震
4/14、4/23	パキスタン	洪水
4/17、4/22	インドネシア	火山
4/23、4/24	キルギス	土砂
5/5	ネパール	洪水
5/6	アラブ首長国連邦	洪水
5/11、5/15	インドネシア	洪水
5/19	トルクメニスタン	洪水
6/2	インド	洪水
6/6	バングラデシュ	洪水
6/12	ベトナム	洪水
7/2、7/3	キルギス	土砂
7/6	ベトナム	洪水
7/7、7/12	ミャンマー	洪水
7/9、7/10	ネパール	洪水
7/10、7/15	インド	洪水
7/15	ネパール	洪水
7/15	フィリピン	洪水
7/17	キルギス	洪水
7/17	ウズベキスタン	洪水
7/18	タジキスタン	土砂
7/20、7/21、7/26、7/27	フィリピン	洪水
7/25	ベトナム	洪水
7/26、7/30	台湾	洪水
7/30	フィリピン	洪水
8/9、8/13	タジキスタン	洪水
8/11	ネパール	洪水
8/15	ブータン	洪水
8/21	キルギス	土砂
8/24	バングラデシュ	洪水
8/25	ネパール	洪水
8/30	ネパール	洪水
8/30、8/31	ベトナム	洪水
9/1	インド	洪水
9/2、9/5	フィリピン	洪水
9/9、9/14	ベトナム	洪水
9/15	ミャンマー	洪水
9/15、9/19	タイ	洪水
9/19	ラオス	洪水
9/22	ベトナム	洪水
9/30、10/4	フィリピン	洪水
10/1、10/6	ネパール	洪水
10/23、10/26、10/28	フィリピン	洪水
10/2	インド	洪水
10/30	ベトナム	洪水
11/6	インドネシア	火山
11/14、11/19	フィリピン	洪水
12/2	タイ	洪水
12/21	フィリピン	火山
12/21	バヌアツ	地震

関連リンク
・2023年4月～12月の国内・国外の自然災害における緊急観測
・令和6年能登半島地震における緊急観測や解析結果
・センチネルアジアについて
・国際災害チャータについて